「赤也。」
「んー…?」
「好きだよ。」
「俺も。」


 俺も、って何それ。


 赤也の部屋でわたしはDVD、赤也はベッドに寝転がり、雑誌に夢中。 全然構ってくれない赤也に久々に好きだと伝えたというのにこの仕打ち。 雑誌から顔をあげさえしない。(顔くらい向けろ!)

 赤也と友達付き合いで3年、恋人として付き合い出して1年が経とうとしてる。 告白したのはわたし。暑い夏の日だった。

「ずっと好きだったの。」
「…うん、俺も。」

 玉砕覚悟で挑んだ告白だったから、あの時はもう泣いて喜んだ。 「泣き虫治んねぇな、。」なんて優しく髪を撫でてもらった。涙で濡れた顔をあげると 額に唇が落とされた。 全部、初めて。

 あの頃は何もかもが新鮮だった。 毎朝しっかりブローもしたし、目が合うと心臓が飛び出そうな程激しく胸を打ち付ける。

 それが今は、何。
 てか、実際わたし『好き』って言われた事ないよね。

「赤也ー。」
「何。」
「わたしの事好き?」
「うん。」

 もう一度挑戦してみるも、やっぱり結果は同じ。(せめて顔!顔!!顔こっち向けろ!!) 「うん、好き。」くらい言ってくれれば良いのに。 赤也の愛が解らないよ、わたし。

 DVDを止め、わたしは赤也の雑誌を気配を消して後ろから奪い去った。 眉間に皺を寄せ、明らか不機嫌な赤也がこちらを振り返る。 返せ、とか言わない所がなんとも怖い。視線に負けて「すみません。」 と謝ってしまうのをじっと堪える。

(でもわたしが馬乗りになったっていうのに気づかないって何なの。)

「マジメな話しよ。」
「俺ももバカだから無理っしょ。」
「バカでも出来る話。」
「ナイナイ。」

 温和なわたしもイラッとした。ついつい手にしていた雑誌を部屋の隅に投げつける。 バサッ、という音。多分ページが数枚折れただろう。

「…意味わかんね。」

 そう言うと赤也はそのままベッドにうつ伏せ目を閉じた。 …って、オイオイ!寝る気ですか!彼女が遊びに来てるんですよ!

「ちょっと赤也寝ないでよ!」
「まだ寝てないから用件言えって。」
「まだ、って何!」

 チッ、と小さく舌打ちが聞こえた。舌打ちをしたいのはこっちです。 とは言え、多分わたしが舌打ちしたら赤也はブチ切れるので我慢。 わたしってばつくづく良い彼女だなと自分でも思う。

「あのさー、赤也ってわたしの事本当に好きなの?」
「…何それ?さっきから言ってんじゃん。」
「あ、ちゃんと聞いてたんですね。」

 軽く嫌味を言えば鋭い目で睨まれた。だけど今日のわたしはそれくらいじゃ 怯みません!

「いやぁ、その、ね?わたしが好きって言っても『うん』としか…。」
「普通じゃね?他に何言って欲しいんだよ。」
「だから、俺もの事好…、き……とか…、さ、」

 やばい、これは予想外に恥ずかしかった! 「俺もの事好きだよ、って言って!」なんて軽々しく口に出来るような文章じゃなかった!

 あー、うー、なんて唸ってると、赤也が口角を上げてニヤニヤとわたしを見上げていた。 なんだろう、形勢逆転みたいな。

「…なんでもないです。雑誌投げてすみません。」

 素直に謝りベッドから降りようとすると赤也がわたしの腕を引っ張った。 わたしはそれに従って赤也の横へダイブした。着地に失敗して顔から突っ込んだけど、 着地点が布団で助かった。

「俺の愛伝わってない?」
「うん。」

 顔を近づける事なんて今まででも何度もあったというのに、どうしてだろう。 今日はやけに緊張する。まつげ意外と長いんだなぁ、なんて考える暇もない。 目を逸らせない。

 赤也が一瞬だけ優しく笑って、わたしの額にキスをした。

「……、えっ!?」

 まるで告白された時のように、優しくて、柔らかくて。

「顔真っ赤。」
「ううううううるさい!」
「そんなに嬉しかった?」

 赤也は照れる様子もなくそんな事を聞いてくる。 嬉しくないわけがない。額にキス、これは1年前のあの時以来始めてなんだから。

「…嬉しかった。」
「じゃあコレで良いっしょ。つーか眠いし、ちょっと寝よ。」


 って、良いわけあるか!


 なんて思ったけど、赤也は既に目を閉じていて、それでも大きな手はわたしの頭を休まず 撫で続けてくれている。その心地よさにわたしも段々眠たくなってきて。

 騙されない、こんな事じゃ騙されない!
 なんて頭で必至に考えても。

 赤也の寝顔やさりげない優しさ。



 やっぱり、これだけでも良いかもしれない。



2008.06.18
Written by eiko
企画『 silent star 』さま提出作品