今日でこの通い慣れた校舎ともおさらばだってのに、

赤也はしつこいぐらいに泣きついてくる。



行かないでくれなんて無理に決まってんだろぃ?







赤也はぐすぐすと鼻を鳴らして

赤目モード並みに目を真っ赤にさせて涙だって浮かべて。


(流石にあそこまで真っ赤にはなってねーけど。あの赤也、怖いし。)






俺と仁王はそんな赤也を笑って、手ぇ振って、頑張れよって励まして

「ガンバリまずよ!」なんて上擦った声に爆笑して。








あー・・・赤也、ホントお前最高だったわ。

おかげでこの2年間はスッゲー楽しかった。サンキュ









なんて事は死んでも言ってやんねーかんな。


調子乗んだろ、お前のことだから。














証書片手に校門へ歩いてる時に

仁王は用事があるって言って、さっさと帰っちまった。



まあ俺もと会う予定があったから気にする事でもないけど。






通い慣れたアスファルトの道には、踏み潰された桜の花びら。

見上げれば空も覆うように両隣を彩るピンク



一枚のピンクが俺の膨らますガムへと着地した。


割れたガムに離れることなくくっつくそれは、まるでさっきの赤也だ。



俺は躊躇うこともなく赤也つきのガムを口へと戻した。






なんともいえない感覚。










「・・・マズ」









当たり前のことだけど。


マズイというよりは味もなにもしないんだよな、




と、ポケットに突っ込んだ手に微かな振動が伝わった。

携帯のバイブが着信を告げる。





「・・・もしもし?」


『ブン太っ!』





怒ったような、けれどとても嬉しそうな声が携帯越しに聞こえてきた。





「おぅ、なに?」


『なにじゃないでしょ!あたし待ってるんだからね、』


「分かってるって。今そっち行ってるから」





電話の相手は俺の目に見えた距離に立っていた。


頭には赤也・・・・じゃなくて、桜の花びらを積もらせて。




『さっさと来てよ・・・って、』





俺に気づいたのかその続きは聞こえることなく

通話終了のブチリ、という音の後に寂しげなツーツーツー。







「いきなり切んなよ」


「本人そこにいるんだからいいじゃん。」







俺の隣に並んだ拍子に、頭の上に積もった桜が数枚舞い落ちた。





「ねえブン太。海行こ、」


「はぁ?なに言ってんだよ」


「いいじゃん!卒業祝いってことで!!」






無理矢理腕を引かれ、連れてこられたのは自転車小屋。


スクバからくまのキーホルダーがついた鍵を取り出すと

俺の髪と同じような赤い自転車を引いてやってきた。






「はい、乗って!」


「お前バカだろ。ふつー俺が前」


「今日は特別にあたしがこいでやる」


「いいからお前は後ろ乗ってろ」





サドルに跨ろうとするを後ろに座らせ

錆びれた音と一緒に自転車は発進。



さっきまで嫌がってたくせに、俺のシャツを掴むの手。



それがなんだかとても可愛くて

背中越しに伝わる温もりが俺の身体を火照らせる。



こっから海は、チャリだと結構な時間がかかるはずなのに

気づけば目の前はもう海でどんだけ夢中で話してたんだよ、とツッコミたくなった。












「うわー・・・風冷た!」


「まだ3月だし当たり前だろぃ」


「さっぶ!」





俺の話を聞いてんのか聞いてないのか。

会話は成立していなくとも、お互い一言ひとこと言い合って





「ブン太、お腹空いた」


「・・・お前むかつく」


「ひど、」






こんなことだけは伝わりあう。






「まぁ俺も減ったし、なんか食いにいくか」


「行くー」






市街地に戻るまで、また長い距離を進まきゃならない。


けどどうせそれもまたあっという間なんだろうけど





「ね、ブン太」


「あー?」


「また来ようね、ここ」





さっきまでの顔はどこへやら。


とても寂しそうに笑ったは、俺の手を取ると

いつものバカ力はどこへいったのかと思わせるくらいの弱い力で俺の手を握った。






「またっていつ?」


「うーん、じゃあ夏!」


「水着買えよ」


「秋も!」


「ぜってー寒い」


「そんでもって冬も!」


「風邪ひくだろ」





春でもこんなに寒いのに

冬なんかに来たら凍結しちまうんじゃねーの?






「まああたしは、ブン太とならいつでもいいんだけどね」


「・・・・・・、」


「なに、どーしたの?」






時々はいきなりこういうことを口にする。


それが、嬉しいのか恥ずかしいのかは自分でも

よく分からないんだけれどとにかく顔が赤くなるのは知ってる。






「わ、真っ赤だ」


「うっせぇ!のせいだかんな!」


「なんであたしのせいなの?」


のせいっつったら、のせいなんだよっ」





どこぞの小学生の言い訳だ、と思える自分の言葉。





「おら、帰るぞ」





あまりの恥ずかしさにさっさとこの場を離れようとの手を引いた。



名残惜しそうだったは、小さな呻き声を響かせ

仕方無しに俺の後をとことことついてくる。



あー可愛い、なんて思ってつい口が滑る。





「・・・・いいぜ、」


「なに?よく聞こえない」


「・・・となら、来てやってもいいって言ってんの!」






ビックリしたような、それでいて幸せそうな笑顔を浮かべる


その顔が、大好きで堪らない。






「ありがとっ、ブン太」


「・・・・・・・・、」




春でも夏でも秋でも冬でも







「また来ような」







と一緒なら、どんな季節でもいいさ。