裸足で触れた、





  あと一歩が、踏み出せない。
  いいや、脱げない。

  どうして私は、あの人のことを好きになってしまったのか。
  今考えてみると、そのときの自分の思考が、よく分からない。
  何を、どんなことで、どのようにして、好きになったのか。私は何一つ、あの人のことを知らないの
  に好きになってしまったんだろうな・・・。
  まあただ、分かっているのは―――今、目の前で背後からにもスポットライトが出てきそうなほど、
  きらきらと輝いている笑顔、ぐらいだね。


  「もうすぐ、卒業だな」

  「そうだね」

  「は、志望校どこだっけ?」

  「さあ、どこでしょう」


  ほらまた、逃げ出した。
  彼は「ふぅん」と頬杖をして、顔を教卓に向けた。
  さっきみたいに彼からの質問を大体、「どうでしょう」とか「どうだろうね」と誤魔化す。
  まったくと言っていいほど、会話のキャッチボールが成り立っていない。ほとんど、わたしが場外
  ホームランを打ってるからね。
  でも本当は私だって、ちゃんと彼と話したいし、さっきの会話で「私は××高校なんだ。サエは?」
  って、言ったかったよ。
  しっかし、私の心に天の邪鬼が住み着いている。話したいと思っても、途中で口を開くのが面倒くさ
  いと思い始めだして、短い言葉しか言わなくなる。
  何とも、最低だ!


  「俺、××高校だから」

  「・・・えっ?あっ、うん」

  「その高校でも、テニスを続けようと思うんだ」

  「へえ・・・」


  ああまた、やってくれた。
  私が、あのような簡潔な答えでも彼は華麗にキャッチし、私に返してくる。私が聞いてないことを
  ―――ううん、聞きたいことを彼は話してくれる。
  たぶん、席が隣になったときからこうだった気がする。
  『どうして、こんな私と話をしてくれるのだろう』と思っていたのが、いつしか悩みになってしま
  ったのやら・・・。
  どうやったら、黙ってくれるのかな、みたいな。(彼に対して、ヒドいね)(うん、ヒドい)
  それから、サエの声を耳に傾け、「そこの高校、バネと一緒なんだよね」とか「早く、ホームルー
  ム終わらないかな」や「実は、好きな人いるんだよ」などなど・・・。
  うん・・・?好きな人?


  「誰っ?」


  髪を思いっきり振り、彼の顔を見た。
  彼は頬杖をしたまま、私の顔を見るいなやまた爽やかスマイル。


  「やっと、反応してくれたか。
   やっぱ、女子は恋バナに敏感なんだね」

  「女子以前よりも、サエのようなカッコいい男子が好きな人いるなんて、新聞記事に載るほどの
   大スクープだよ。
   反応しないでいられないからっ」

  「そう?
   俺も一応、人間だし、恋するのは当たり前だと思うけど・・・。
   それで、聞きたい?」

  「聞きたい」


  まさかのことに心臓が暴れ出した。声が少し、上ずっていたかもしれない。
  心配と期待が、交互に入れ替えをする。さっきまで乾いていた手も汗で湿っていた。
  一体、誰なんだろう。


  「じゃあ、教えようか」


  わくわくとどきどきが混じり合い、舌が乾いてきた。
  少ない唾液を呑み込んだ。真剣な顔をして、耳に神経を集中させ、サエの顔を見つめた。
  すると、彼は「あっ」と声を出した。


  「そうそう、


  ざわめきだしていた周りが、さらに音量を上げ、騒ぎだす。
  けれど、私の耳には彼の声しか入ってこなかった。
  今まで、名前で呼ばれていないことに気づかずに、私はしっかりと彼の話を聞いてしまった。


  「覚悟、しなよ」

  「はっ?」


  いつまでも笑みが絶えない彼に間抜けな返事をすると、腕を引っ張られ、耳元でそっと、“何か”
  を言った。その“何か”に顔から火が出た。
  躊躇いの靴が右足から、脱げ落ちた。
  それからまた、「返事は?」と鼓膜を響かせ、私の脳内をぐちゃぐちゃにしてくる。これじゃ、
  「はい」しか言えないじゃないの・・・!
  だから今、左足から決意の靴が消えた。
  私は、覚悟を決めつけられた。サエに全ての主導権を握られ、全ての選択権も奪われ、ついに
  「はい」と返事した私は、彼の心にかな?







聞いて、

  が、好きなんだ」

               話して、

          耳にふれると未だにその言葉が余韻として、よみがえる。

                              アンサー!

                                (あの声と言ったら、反則だっ!)






(戯言 念願の無駄に男前のとらじろう(こらっ)夢を書けました。素敵さが一つもないっ。
    好きな人から告白されると「ああついに、この人に一歩近づいた」の様な感覚になりませんかね?
    家の外からやっと玄関に入れた、みたいな。御免なさい、意味が分かりませんね、はい・・・!
    参加させて頂き、ありがとうございますっ!)