「もうすぐ、だよな…」


 −−−早く時間が経てば良いのに

 この辺りで一番大きな桜を下から見上げた。
 ゆっくりと風に吹かれて花びらが散っていく。




 RRR...




 ポケットの中から振動が伝わって来て急いで取り出す。
 画面に写った名前を見て自然と自分の口元が緩んで行くのが分かった。



 「


 『ブン太』


 「珍しいなお前からなんて」

 
 『そうかな?なんかブン太の声聞きたくなっちゃって』




 ドキンドキン


 心臓がうるさい。電話越しのを想像しただけでおかしくなりそうだ。
 と離れてからもう3年になる。
 中学の時から付き合っていたけど、の親の仕事の都合で引っ越す事になってしまった。
 会いに行く事もあるが年に何回かしかない。(いわゆる遠恋ってやつ?)
 大学受験が終わるまでは、二人とも忙しくてずっと会えない日が続いた。
 だから今のの姿が見たくて、抱きしめたくてたまらなかった。




 『あー、何か私今すっごく恥ずかしい事言っちゃった』


 「俺としてはすっげー嬉しい」


 『ふふ、ねぇブン太…ホントにブン太の部屋で暮らしても良いの?』

 
 「いーの、俺が良いって言ってんだから…ま、でも半分強制なんだけどな」




 と俺は同じ大学を受験し、合格した。
 同じ会場に居た事なんて分からなかった。
 が合格したのを伝えたのはすでにが帰ってしまった後だったから。
 もちろんにその事を言われて驚かない訳がなかった。
 むしろ嬉しくて嬉しくてどうにかなってしまいそうだった。

 


 『同じアパートじゃなくて、同じ部屋って…大丈夫かなぁ』


 「新婚みてぇでよくね?」


 『ばか』




 どうして俺がここまで同じ部屋にこだわるのか、はいまだに分かっていない。
 それはもちろん悪い虫が付かないように、という事だ。
 高校は女子校だったから良かったものの、大学じゃそうはいかない。
 俺の見ていない所で何かあったら大変だ。(昔よくナンパされてたしな)



 
 「女子校だから平気だと思うけどさ、ナンパとかされなかったか?」


 『平気だよー、ブン太こそ逆ナンされなかった?』


 「ばっきゃろ!平気に決まってんだろぃ」



 
 クスクスと笑いながら離す俺と
 俺にとって幸せな時間っていうのはこの時かもしれない。

 ーーー会いたい




 「荷造りしたか?」


 『うん、ばっちりだよ』


 「そっか、早く会いてぇな…!」




 早くに会って、抱きしめて、話して、笑い合いたかった。
  




 「ブン太」





 風に吹かれて桜の花びらが一気に舞い上がった。
 そこに現れたのは紛れもなく
 綺麗になった、。前会った時よりも、もっと綺麗になった。

 


 「なんで…」


 「驚いた?さっきから歩いて話してたんだよ?」


 「マジ…?」


 「本当は来週の予定だったけど、どうしても早くブン太に会いたかったから…」


 
 途端に顔が熱くなるのを感じた。
 も俺と同じぐらい真っ赤になって微笑んだ。
 
 両手を広げた俺に向かって<が抱きついた。
 もう絶対に離してやるものか、というくらいお互い抱きしめ合った。
 話すよりも、今はこうしていたい。
 
 −−−これからは、ずっと一緒にいられるんだ



 「おかえり、


 「ただいま、ブン太」



 
 何もかもが懐かしくて愛しくて、この大きな桜の木の下で口付けをした。
 そんな俺達を祝福するかのように、桜の花びらが俺達の周りに舞った。






 桜色の花びらが散る時
 (お互い顔を真っ赤にしたまま歩き出した、俺達の家へと)