「うー・・・ごほごほっ」
「大丈夫か?

心配そうに訊く大石に頷いてみせると、は再び咳き込んだ。









眠るまで、手を繋いで











「大丈夫ではなさそうだな」

午後になっても咳が止まらず、授業を休んでいたの元に来たのは手塚だった。

「部長ー・・・」
「だめだ。今日は帰れ」

嫌そうに布団をかぶるにきっぱりと言って、
保健室の先生に一礼すると手塚は出て行く。

「あらま、お大事にぐらい言っていけばいいのに、手塚君」
「良いんです、部長は」
「厳しいけど、良い部長さんね」
「はい・・・」

言わないけれど、帰れと言った時点でそういうニュアンスを含んでいる。
ありがたいけれど、部活に出れないのは正直辛い。

38度ちょっとの熱の中でそんなことを思っていたら、扉ががらりと開いての鞄を持った海堂が入ってきた。


「今度は海堂君よ。ふふモテモテね、ちゃん」
「違いますよ先生・・・。ありがとう海堂君」
「ああ・・・おい」
「大丈夫。ちょっと熱があるだけ」

横に置いてある体温計をちらりと見て「大丈夫じゃねぇだろ」と海堂が睨む。
しまった、消し忘れた。と思ったときには遅かったのだが。
すかさず先生が「はいはい」と間に入った。

「こら海堂君、そんな睨んじゃだめ。あと鞄ありがとう、担任の先生に言っとくわ」
「・・・はい」
「海堂君、ごめん」
「何がだ」
「心配掛けて」

ふらっとしつつ微笑まれて海堂一瞬フリーズ。
後ろで先生がくすくす笑う中戻る羽目になった。

ぱんっと音がするほどの力で閉められた扉の音に先生はまた笑って、

「本当に面白いわね、テニス部は」
「ですよね。楽しいです」
「それは良かった。・・・じゃちゃん、帰りましょうか」
「先生、ダメですか?」
「だーめ。この熱では無理よ。あと家に電話したんだけど・・・」
「あ、母と父は仕事でいませんから」
「そうなの」

私が送って行くわと言う先生を断って、は1人で保健室を出た。
これ以上迷惑を掛けるわけにはいかない。そんなに辛いわけではないし。

少しふらつく足取りで、でも倒れたりはしない。
そんな微妙さで下駄箱にたどり着くと後ろから声がした。

「・・・?」

後ろに立っていたのは、乾貞治。
は座っていたので首が痛くなるほど見上げて、

「乾先輩!部活はどうしたんですか?」
「俺は日直で遅れたんだが、お前はどうしたんだ」
「ちょっと体調が悪くて・・・早退です」
「朝からのか」
「はい・・・ということですみません」

立ち上がって鞄を持った。
会釈したところで、するりと乾の長い指が額に伸びる。

「ひゃっ」
・・・38度はあるだろう」
「乾先輩の手が冷たいんですよー!」

少し声を大きくしたところで、ふらりとしてしまった。
なんてバットタイミングなの、と思ったのもつかの間、乾の腕がを支えた。

、送る」
「ありがとうございます。でも大丈夫ですから」
「これはだめだ」

きっぱりと言ってみたつもりだったのに間髪入れずに乾が返す。
ちょっとだけ面食らって、は乾の顔を見上げた。

・・・表情はわからない。
その心を読んだかのように乾が口を開いた。

「俺はお前を心配している。熱が38度もあるマネージャーをそのまま1人で帰せるわけがないだろう」
「ダメです。乾先輩は部活行って下さい」
「嫌だ」
「駄々こねないで下さい」
「違う」
「乾先輩!」
―――ほら」

くらりとして、また乾の腕がを支えた。

「・・・わざと大声出させましたね」
「なんのことだろうな」

しらばっくれるとがムッとした顔をする。
多少怒られるのはしょうがない。道端で倒れられたりするよりかは100倍、いやそれ以上にマシだった。
ほっておくと無茶ばかりしかねないが心配だ。

あとは俺の口次第だが、今のに折れてもらうのはさほど大変ではないだろう。







■■■■■







「乾先輩〜もう大丈夫ですって、お願いだから戻ってください」
「いいから熱を測れ。体温計はどこだ?」

邸に着いて、ここまでで良いと言い張るをまた折って家に上がった。
だいたい両親がいない女子の家に上がりこむのもあれだが、まぁそういうことではないらしい。

「体温計はこの間壊しちゃって・・・ごほごほっ・・・」
「大丈夫か?」

はぁ、と熱い息をはくは大丈夫そうではなくて。
こんな時に声を掛けることだけで精一杯な自分がもどかしくて仕方ない。

「とりあえず布団に入れ」
「はい・・・・・・すみません」

申し訳なさそうに謝るに乾が黙って布団を掛けると、は少し微笑んだ。

「乾先輩ってお兄さんみたい・・・」
「ん?」
「私、両親もあまり家にいなくて・・・兄弟もいないから、なんか新鮮です」
「・・・そうか」
「乾先輩みたいなお兄さん、欲しかったなー・・・」
「・・・・やめておけ」
「・・・・・嫌ですか?こんな妹は」

少し笑ってが訊く。
もう一度の額に手を当てると前より熱くなっていた。

「そんなことはない。―――でもな」
「?」

言いかけて、やめた。
これを言ったら、の熱を、少しかもしれないが上げてしまう自信はある。
それくらいの自惚れは許されるだろう。

「乾先輩の手、気持ちいいですね・・・」
―――

額に置いた手にの指が触れる。
びくりと驚いて引こうとした手を何とか押さえて、なだめるように指を絡めた。
―――折角冷たかったのに、熱くなるかもしれないな。
そんな一抹の不安を抱えて、握る手に力を入れた。

はもう夢との境目で、それを別段気にする風も無い。

「・・・
「・・・・・・・・」
「俺は・・・このままがいいな。お前とは妹じゃなくて、先輩と後輩で、選手とマネージャーで。・・・・・俺と俺の好きな人で」

他に誰もいない部屋で、と自分だけで、は寝ているという条件で言ってみたのに、

「そう・・・ですね・・・・」
「・・・起きてるのか?」
「・・・・・・・・・」

驚いた。というか今も心臓がどきどき鳴っているのがわかる。
さらりともう片方の手で前髪をなでると、は静かに寝息を立てていた。

「気付いても・・・良かったけどな」
「・・・・・・・・・・・」

こっそりと額にキスを1つ落としてを見ると、少し嬉しそうに微笑む顔が見えて。
想いを流し込むように、乾は繋いだ手を握り締めた。





















Fin





silent star様に提出。
乾先輩は融通が利かないというか、意外に頑固じゃないかなと思った結果(笑)
乾先輩をメインで書いたのは初めてだったので、口調に戸惑いました(汗)
微々糖ぐらいの甘さに仕上がってしまってorz・・・精進します。

読んで頂きありがとうございましたv


月村時音