さて、今目の前に今怒っていらっしゃる日吉君がいます。
むっとした顔で座っていらっしゃります。
機嫌の悪い日吉君を相手するほど大変なことはありません。
誰か助けてください・・・。
「あのー、日吉さん?」
第一に言葉のやり取りが出来ない。
返事が返ってくるわけもなく、ガットを触っている。
重い空気と時々するガットの弾かれた音。
無言のままだと空気に押しつぶされそうになってしまう。
「どうしてそんなに機嫌が「悪くない。」
ああ、悪いんですね。そうですか。悪いんですか。
第二に日吉君に「機嫌が悪い?」と聞くと「悪くない」と意地を張ります。
そんな無言でむっとした顔を見て機嫌が悪いわけがないじゃないですか・・・。
むしろ随分悪そうに見えるんですけどね。
今日の放課後になって、急に日吉君の態度が変わった。
同じクラスの子からは「日吉君かっこいいけど、ちょっと怖い」とか「俺に近付くな的な雰囲気がするよね。」
ただでさえそんなことを思われている日吉君。
それは100%誤解で全然怖くもない(時もある)し、俺に近付くなとか言ったこともない。
あくまでそれは日吉君の性格を知らないだけの意見。
マネージャーしてからは日吉君のちょっとした気遣いとか優しさが分かるようになったもん。
こうして気軽に話しかけてもそんなに酷いことを言ったりはしない。(時々意地悪なことは言うけど・・・)
「あの・・・私日吉君の気に障ることでもしましたか?」
「別に。」
ああ、したんですか。私何かしちゃったんですか。
そっぽむいている日吉君を見るだけでたしかにそれは物語っていた。
日吉君の怒ってるところは大抵私が原因な時が多い。
むしろそれしかない気がする。
触らぬ神に祟りなしと昔の人は言いました。
たしかにその言葉には同意を得なければなりません。
今の日吉君に話しかけるのはとばっちりを受ける可能性だって出てくる。
下手すれば・・・もっと機嫌を損なうことだってあるはず。
そうとなればこのベンチから立ち去らなければ。
でもどうやって抜け出そう。
都合の良い感じに誰か来てくれないだろうか。
「あ、さん!」
なんと空気が読める鳳君。
癒しの笑みを浮かべながらやってくる。
ナイス鳳君!
私の前まで来るとその笑顔のまま言った。
「さっきはお菓子ありがとう!さん料理上手なんだね!」
「え。もう食べたの!?」
「うん。さっきの休憩時間にちょっとね。宍戸さんも一緒に食べちゃったからあんまり食べれなかったけど・・・。」
「あの先輩は・・・。後輩の物食べて・・・。」
「いえ!またさんに頼めば作ってくれるかなーなんて思って宍戸さんにあげちゃいました。ところで・・・日吉はなんで機嫌が悪いの?」
どうやら鳳君は日吉君の空気は読めなかったようだった。
かすかに後ろを向くとさらに機嫌の悪くなった日吉君がこちらを睨んでおりました。
いいいい、一体なんでそんなに機嫌が悪いんですかァァァ!!
鳳君は何事かあまりわかっていないようで、きょとんとした顔をしている。
まさに日吉君と正反対の表情だろう。
「。」
「は、はい。なんでしょうか。」
「ちょっと来い。」
やばい。この日吉君のオーラは私にとばっちりをくらうことになってしまう!!
鳳君の顔を見ると「何?」と言うような顔をしていた。
どうやら鳳君は空気が読めたり読めなかったりするらしい。
とにかく今は鳳君に空気を読んで欲しかった。
いつも以上にブラックな雰囲気を漂わせている日吉君の元へ私は近付く。
「鳳、お前は宍戸さんとでも練習してろ。」
「うん。わかった。それじゃあさんお菓子ありがとうね。また作ってね!」
「は、はいー・・・・・。」
相変わらずの笑顔のまま、手を振って練習に向かっていった鳳君。
ふたたび私と日吉君で気まずい雰囲気になる。
じっと私を睨む日吉君と目が合わないように私は視線を逸らした。
機嫌が悪いときも良い時もいつも関わるのは、なぜか私だ。
冷静沈着と言われている日吉君が私1人の感情で怒るなんて普通なら尋常じゃないと考える。
それは私のことをどう思っているからなのだろうか。
・・・少なくとも、好くは思われていないと思う。
「・・・・今日の6時間目は何の教科だった。」
「今日の6時間目?えーっと、家庭科実習・・・・。」
「何を作った?」
「クッキーとケーキ。あと紅茶。」
「それはどうした?」
「ケーキと紅茶は一緒に食べてクッキーは鳳君にあげたよ。」
「なんで鳳にやるんだ?鳳が好きなのか?」
淡々とした質問の中に、ふと疑問が湧いた。
今度はさっきと打って変わって目を逸らしながらも私に質問を繰り返す日吉君は少しいつもとは違った。
たしかに機嫌が悪いのもある。怒っている部分だってある。
だけどいつもみたいに問答無用で意地悪したり拷問したりはしない。
口攻めというか・・・・おかしな質問ばかりをしてくる。
それは私の妄想に近いんだけど、日吉君が鳳君に嫉妬とか・・・・。
「もしかしてクッキーあげなかったことに怒ってるのですか?」
「ッバカじゃないのか。なんで俺が・・・。」
「でもなんか今日の日吉君の怒り方ちょっと変だよ・・・。叩かないし蹴らないもん。」
「叩いて蹴ってほしいのか?」
「いえ、お断りします。」
それは断固拒否させてもらう。
でもやっぱり日吉君の怒り方は少し違う。
私が鳳君にクッキーあげちゃったから?
今度は私が日吉君の目を見ようとするが日吉君が視線を合わせてくれない。
あ、ちょっと私今日吉君に復讐出来てるかも。
なんてちょっと優越感に浸る。
「日吉君もクッキー食べたかったの?」
無言のままでついにそっぽ向いてしまった。
機嫌の悪くなった日吉君のなれの果てだ。
後ろから髪で見え隠れしている耳がほんのり赤みを帯びていることに気がついた。
やっぱりそうなんだ!と証拠もないのに確信を得たと思った私は急にうれしくなった。
鳳君にやきもちするくらいなら、直接私に言えばいいのに。
鳳君は「欲しいな」って言ったからあげたんだよ?
日吉君も素直に「欲しいな」って言えばいいのに。
・・・・ま、日吉君がそんなに素直とは思えないけどね。
やれやれと思いながらも私はそっと日吉君に声をかけた。
「鳳君にあげたクッキーね、全部じゃないんだよ。」
もちろん私だって味見程度しか食べていないのだから多少は食べたい。
同じ班の奴等がほぼ食べてしまい私の分を確保するのが難しかったがなんとか手に入れた代物だ。
鳳君にあげたのはその中でもほんの一握り分だった。
私もまた私のために残されたクッキーを確保しているので、全然無いと言うわけじゃない。
ここまで・・・めずらしくかわいいと思える日吉君を見たんだしあげないわけにはいけない。
むしろあげないと私の今後の生活が色々と危ない。
「・・・・クッキー欲しい?」
相変わらず返事は返ってこない。
言葉のキャッチボールもできないのかな。
そんなに恥ずかしかったんだ。
ちょっとにやけてしまった私。(日吉君に見られなくてよかった・・・)
「日吉君食べたく無いの?」
どーーーーーーーーーーーしても自分で認めるのは嫌らしい。
とことん強情に生まれてきちゃったみたいだ。
私はため息を落とす。
「もう・・・。少しくらい口を利いてくれてもいいじゃん。」
そばに放置していたバックの中からクッキーを取り出す。
友達が変なお菓子とかいれるのでたまに変なクッキーも混じってるけどまあ食べれないわけじゃない。
だって(ちょっと実験台になっちゃったけど)鳳君もおいしいって言ってたもんね。
そっぽむいてこっちをむかない日吉君。
だけど少しだけ・・・ほんの少しだけこっちを向いた。
「日吉君にあげるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「それと・・・・・・私は別に鳳君が好きなわけじゃないから。っていうかフリーなの。」
「かっ、関係無いだろ。」
やっと口を利いてくれた。
さっきまで日吉君の機嫌が悪くてどうしよう、なんて悩んでいたのに。
今じゃ日吉君の意外な一面を見ることができてよろこんでるみたい。
こうしてると「調子に乗るな」とか言って叩かれそうだけどね。
何も言わずに伸びる手。
そっとクッキーを食べる日吉君は、やっぱりかわいいと思える私でした。
「甘。」
「クッキーだもの。甘いに決まってるよ。」
企画:「silent star」様へ!
駄文ながら、参加させていただきます!
参加させていただき本当にありがとうございます!orz
久しぶりに私がデレデレデレ日吉を書きました・・・・!
私は大抵デレ:ツンで4:6でしてるのに・・・・!
今回は8:2ぐらいはデレてる!!!!!!!!
でもなんか私はツン多めが好きなんでもう書きたく無いです。←
鳳君は空気読めない子だと思ってる。
でもぽやーっとした癒しなニコニコ笑顔で許されていると思っている。
使用素材様
(08.02.26)