075:ねえ、こっちを見て



075:ねえ、こっちを見て

今日は朝から何や違和感があった。
この違和感の正体は何やと考えると、ある一つの結論に達した。


「あ、今日は謙也が挨拶ついでに抱きついてけぇへんわ」


抱きつきながら朝の挨拶っちゅーのは謙也の日課らしく、付き合い始めてから一日も欠かされた事が無い。
最近は慣れたものの教室等の公衆の面前で堂々と抱きつかれるというんはやっぱ恥ずかしい。
そんなこちらからしたら些か不本意な彼の日課やけど欠かされると何や…違和感がある。
アレやな。毎晩夕飯時にオトンが絶対にチャンネル譲らへん野球中継が雨で中止しとったみたいな感覚やな。

チラッと謙也の方を見ると彼は何やら頭を抱え込んで俯いていた。何をやっとんねん。何を。


「おはよう謙也。どうしたん?頭抱え込んで」


此方から挨拶へ出向かうと謙也は私の顔を見るなり鳩が豆鉄砲喰らった様な顔をして


「あぁ……おはようさん…」


朝の挨拶をしてくれた。目を反らしながら。

「ちょ…何で目反らすねん」
「べ…別に反らしてなんか…」
「今思いっきり反らしとるやん」

謙也の態度に少からずの不信感を抱くも、授業のチャイムが鳴ってしまったので、不本意ながらも席へと戻る。
何やのアイツ。いつも以上に挙動不審になりよって…

その後も休み時間の度に謙也は私から逃げる様に教室から出て行ってしまったせいで真相を究明出来ぬまま放課後になってしまった。休み時間に追い掛けようと思ったけど浪速のスピードスターには追い付けへんかった。


「どうしたん?。謙也とケンカでもしたんか?」


謙也の親友である白石が心配して(るのか?)尋ねて来た…けど、そんなんこっちが聞きたいわ。


「知らん。まったく、何やっちゅーねん。…なぁ白石、謙也どないしたんと思う?」
「うーん…目も合わさんっちゅー事は…何ややましい事とかあるんちゃうか?」
「や…やましい事って…まさか浮気!?」
「まぁ一般的にはそうなるわな。…でも謙也が浮気なんか出来る器とは思えへんけどなー」

白石の言う通り、謙也が浮気なんてする器には到底見えへんけど、あの挙動不審加減は怪しい。
謙也、少なからず優柔不断で押しに弱い所あるから女の子に強く言い寄られたら…


「まぁ本人に聞くんが一番やろ。部長権限で部活前に謙也とを二人っきりにさしたるから部室行こうや」


私が謙也の浮気疑惑に困り果ててると白石が助け船を差し出してくれた。

「ホンマに!?おおきに白石」
「コーヒー、一杯やで」


まぁ謙也の挙動不審の疑惑が晴れるなら120円位安いもんや。
…なんて思ってたら白石が指定したコーヒーとは某大手チェーンのカフェのコーヒーの事やった。た…高くついた。

部室の前で待つように白石に指示され謙也を待つ。
暫くすると白石が謙也を連れてきた。
さぁ真相解明させて貰うで謙也。覚悟せぇ。

…すまん!!」


白石に連れてこられるなり謙也はこっちが問い詰める前に勢いよく私に謝罪の言葉を叫んだ。
そんな謙也の行動に私も謙也を連れてきた白石も呆気に取られた。


「ちょ…いきなり謝られても…何が何なんかさっぱりや。まずはちゃんと私の目見て…今日一日の挙動不審の理由話してみ?」


謙也の先制攻撃(?)に負けずに謙也を諭す。すると謙也はオドオドしながら(177cmの男がやっても可愛くないっちゅーねん)今日一日の不信な行動の経緯を話してくれた。


「ホンマにすまん。から借りたDSのソフト(某大作RPGのリメイクのやつ)うっかりのセーブデーターに上書きしてもうたんや」
「あぁーDSね、DS…って何ぃ!?」
「すまん!ホンマにすまん!」


く…くだらない。そんな理由で私と目を合わさんかったなんて…

…やっぱ怒っとる?」
「怒るに決まっとるやろ!もう…こっちは謙也が浮気とかしとんのとちゃうかと今日一日ハラハラしっぱなしやっちゅーねん」
「浮気!?俺が…?」
「そう。アンタが今日一日私を避けよるから何ややましい事でもあるんちゃうかと…」
「俺が浮気なんかする訳無いやろ。一筋っちゅー話やって」
「謙也…あぁDSの話やけどな、上書き位どうでもえぇっちゅうねん。どのみちあのソフト謙也から返ってきたら売る気満々やったし」
「そうなん?」
「うん。もう全クリしたし」

私がそう言うと謙也は安心したのかヘナヘナとその場にヘタリ込んだ(せやから177cmの男がやっても可愛く無いっちゅーねん)そんな謙也の目線に合わせる様に私もその場にしゃがみ込む。


「ホンマにすまんな、
「しつこいな。セーブデーター位もうえぇっちゅーねん」
「や、今日一日シカトして…」
「あぁ、その事?…うーん、いつもみたいにギュッとして挨拶してくれたら許したる。あの日課が無いと何や落ち着かへんのや」


私がそう言うと謙也は顔を赤くしてモジモジとしだした(しつこく言うけど177cmがやっても可愛く無いっちゅーねん)
つーか、ガバッと来いや。いつもみたくガバッと。


…儲かりまっか」


やっと意を決したのか謙也は私の要望通りいつもの朝の日課をやってくれた…けど。

「ぼちぼちでんなぁ。…って、何やの?その挨拶」
「は?もう放課後やん。放課後に朝の挨拶すんのもオカシイやろ」
「あぁ…なるほど」


納得はする理由やけど…イマイチ色気無いなぁ…なんて思ってたら後ろから白石の声が聞こえた。

「そんな下らん理由やったんか…こらコーヒーにスコーンの一つでも付けてもらわなアカンなぁ」

その後、私と謙也は白石に某大手チェーンのコーヒーとスコーンを奢るはめになった…
『んーデリシャス』なんて言いながら優雅にコーヒーとスコーンを召し上がる白石を見て次からはちゃんと自力で謙也との問題は解決しようと心に決めた。




終わり