自分が自分ではなくなりそうで。
壊れることをすごく嫌い、涙を流してしまいそうで。

それが嫌だった。
だから恋なんてしなかった。

だけど私は今初恋を言うものをしてしまい、
今その真っ只中にいる。

だけどそれがいけないんだ。
分かっていたはずなのに、気を付けていたはずなのに。


…………恋なんて、嫌いだ。








。さっきから何を拗ねとるんじゃ」
「……別に、拗ねてない」
「そういう態度が拗ねとるんじゃよ」



そう言って頬を突いた雅治の手をパシンと払う。
そんな私の冷たい態度に雅治は驚いて目を見開いたけど、
彼のご機嫌をとろうとするほど、今の私は優しくなれない。

すごく心が乱れてて、イライラする。



「…、何があった」
「雅治には関係ない」
「……俺にこんなに冷たくするんじゃ。関係ないことなかろう」
「………」



確かに私が起こっているのは雅治に関係すること。
だけどこんな事、彼には言えない。言いたくもない。

…………違うな。こんな気持ち、言えるわけがない。






「『嫉妬してる』なんてか」
「―――っ!?」





全てを見透かした口調で言った雅治を見れば、
彼は不敵に、だけど満足そうに笑っていた。



「クククッ…。当たり、か?」
「……っ…!」
が嫉妬したのは、今日の体育の時間。
 怪我した同クラスの女子に、俺が優しく接した……からか?」



全てを見透かした―――ううん、違う。
全てを知り、仕組んだ雅治は、事が思う通りに動いた為、
嬉しそうに笑った。

忘れていた。彼はペテン師であり、策略家なんだ。



「何も言わん所を見ると、当りなんじゃろ?



……悔しい。すごく悔しい。

雅治はいつもそうだ。
いつも私の上をいって、余裕のある行動をして人をからかう。
上から目線で、全てを知っていて、それを露にする。



「……嫌い…」
「ん?」
「雅治なんて、大嫌い……」
「何じゃそりゃ。そりゃお前さんの八つ当たりじゃろ…」
「八つ当たりって、私は!!」



そう言いかけた時。
視界は急に揺れて、気がついたら雅治の綺麗な顔が近くに来ていて、
自分が彼に押し倒されたことに気づく。



「俺に騙されて悔しい思いをする自分が嫌い」
「………」
「俺に勝てない自分が嫌い」
「………」
「嫉妬する自分が、深く俺を愛してこんな思いをする自分が嫌い。………違うか?」
「……違わ…ない……」



悔しいけど、雅治の言うとおり何だ。
私は……自分が嫌いなんだ。

彼を深く愛し、こんな思いをする自分が。
誰とも知らぬ相手に嫉妬する自分が。
今までの自分とは違う自分が。

―――――嫌いなんだ。



「まぁ。が今の自分を嫌っても、俺は今のも好きじゃよ?
 何か無茶苦茶で可愛いし、何より俺を深く思ってくれとるからのう」
「……バカ雅治」
「バカで結構」



そう言って優しく唇を重ねてくれた雅治に、
私は返せる言葉がなかった。

今までの私なら、何があっても言い返していたのに…。

…………私は変わった?



「…んっ……ねぇ、雅治…」
「何じゃ?」
「……もっと…欲しい……」



――――ううん。狂ったんだ。



「…今日は素直じゃのう…。まぁ、嫌いじゃなかとよ。そういうの」



再び重ねられた彼の唇を、私は求めた。








…………恋なんて、嫌いだ。


自分が自分ではなくなりそうで。
壊れることをすごく嫌い、涙を流してしまいそうで。

それが嫌だった。
だから恋なんてしなかった。


だけど、私は恋をしてしまった。
恋をして、彼を愛した。

だから私は変わってしまった。
恋をして変わってしまった。


恋は人を変える。

…………いや―――――。





『恋は人を狂わせる』






(狂ってもいいんじゃないか?それが愛の結晶なんじゃし……)






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『silent star』(跡部未菜様)の参加作品。
お題通りに書けたのでしょうか?

未菜様。参加させて頂き、ありがとうございます!!

〜2008年5月1日:完成〜  月村 翔子