「・・・ごめん、亮・・・」
「どうかしたのか?」
君 に 泣 か れ る と
ど う し て い い か わ か ら な く な る
仕事が終わり、家に帰ると呆然としたの姿が目に入った。
どうかしたのかと近寄ってみると、呟くように紡がれた言葉がこの言葉だった。
俺が帰って来たことにも気付いていなかったようで、酷く驚いたようにビクリと肩を震わせた。
「ちょっと落ち着け。どうした?」
「・・・あの、あたし・・・ね」
「ああ」
大抵のことには動じず冷静沈着、マイペースを保ってきたがこんなに焦っていることなんだ。
並大抵のことではないことは想像できていた。
「亮も驚かないで聞いてね?」
「ああ」
「あたし、ね。妊娠した」
「・・・なっ!」
躊躇うようにそう言うに驚いた。驚きすぎて言葉を失った。
表情も驚きのあまり固まっているだろう。
そんな様子を見て、は目を潤ませた。
「ごめん。・・・迷惑、だよね」
「・・・?」
「ごめん」
さっきから謝罪の言葉を口にするに何を謝っているんだろうと困惑する。
の目には溢れんばかりの雫が溜まっていた。
見てはいけないもののような気がして目を逸らした。
「でもさ。亮には迷惑掛けないから。認知もしてくれなくていい。だから。産んでもいい、かな?」
何を先走っているんだろうと思いつつ、俺は全く信用されていないなということに気がついた。
グスッ、と鼻を啜る音が響いて。ドキッとした。
慌ててを見ると我慢し切れなかったというように目から涙が零れていて、これからのことへの不安
なんかがありありと感じられた。
「オイ。なんでそういう話しになるんだ?」
「え、だって亮・・・」
「確かに子供は嫌いだ。だけど違うだろ?」
「何が?」
「何がって。好きな女と俺の子供だぜ?」
「・・・・・」
こんな風に俺が言うなんて予想もしていなかったような顔をして俺を見やがって。
俺はそんな薄情なヤツだと思われていたのか?
「特別に決まってるだろ」
「・・・亮・・・」
「・・・・・大事にしてやるよ。お前の次でよかったらな」
「・・・・っ」
の顔は一層歪んで。
うっ、うっ、と耐え切れないように泣き出した。
「だから・・・・・泣くなよ」
「・・・・・ごめ、だけどあたし・・・」
「泣くな。・・・お前に泣かれるとどうしていいかわからなくなる」
そう言ってに近づき出来るだけ優しく涙を拭いた。
「・・・・・コイツも。お前が泣いてたら心配するぞ?」
「・・・嬉しくて泣いてるんだからいいの」
冗談めかしてのおなかに手をやり笑ってそう言うと、はそう答えて泣きながら笑ってた。
そんなが愛しくて、そっと引き寄せて抱きしめた。
まだ父親になるとか、そんな実感は全くない。
だけど、ずっと傍でコイツが笑っててくれるなら。
きっかけはどうであれ、それでいい。
「。結婚しようぜ」
これは夢じゃないから、現実はそれほど甘くねぇかもしれない。
けど、それでも一緒になるなら絶対にコイツとがいいから。
それだけは譲れないから。
とりあえずの親父に殴られる覚悟で挨拶にでも行くか。
「うん!」
俺の顔を見ながらはっきりそう答えたはもう泣き止んでいて。
目が少しだけ潤んでいたけど、もう表情は幸せそうだった。
ずっと泣かせないっていうのは多分無理だから。
出来る限り泣かせないように努力するから。
だからずっと笑っていて。
「一回しか言わねぇからちゃんと聞いとけよ?」
「え?」
「・・・・・愛してる」
ヤベー。体中から変な汗が出てきた。
は黙ってるし。外したかな?このタイミングはなかったか?
そう思いながらチラッとの顔を見たらクスッと笑われた。
「亮の口からそんな言葉が出てくるなんてね!似合わなーい!」
そう言って笑ってた。
それでいい。
ずっと、こんな関係でいられたら。
きっとそれだけで幸せだ。
こんな毎日が続いていけばいいなと心から思った。
華月いちご