唐突だけど、私には好きな人がいる。
そりゃあ知ってた。アイツが遊び人だってこと。それでも好きなんだもん。しょうがなくない?
私の通っている立海。テニスを中心にどの運動部のカナリの成績。
そんなレベルの高い学校に私は通っている。
私の好きな人はテニス部。部長の幸村は現在入院中で、副部長の真田が中心となっている。
私の好きなアイツは 「詐欺師」 なんて呼ばれている。確かに、ずる賢いもんね。


「ねぇ、。今日はテニス部見てくよね!?」

「行かない。」

「良いじゃん、今日は!仁王くん見えるかもよ?」

「仁王なんてどうでも良いし。」

「えー・・・じゃあ私は見て帰るから。」

「うん・・・。バイバイ。」

「また明日ね!」


友人の誘いを断り、私は帰る準備をする。
先ほどまで友人と喋っていて、時間が経っていたためクラスには私以外いない。
大抵の人は部活に行っているんだろう。
私や友人みたいな帰宅部は珍しい。まぁ、私には特に特技なんてものないからね。


「あ・・・。」

「よう、。もう帰るんか?」

「だって帰宅部だし。」

「そのわりには遅いのう?」

「友達と喋ってたの。仁王こそどうしたの?部活でしょ?」

「ちょっと休憩中ナリ。」

「・・・それってサボリって言わない?」

「・・・・・・ピヨッ。」

「意味わかんないし。」

「冷たいのう・・・。そうじゃ、。一緒に帰らんか?」

「嫌よ。仁王ファンに何言われるかわかんないし。」

「そんな奴等、俺がどうにかするナリ。」


嗚呼、こういうこと言うから余計に好きになるんだよ。バカ。
でもきっと、詐欺師にとってはこれも計算の内なんだよね?
期待なんてしちゃダメ。最終的に崩れるのは誰でもない、私自身。


「それなら、良い、けど。」

「じゃ、ちょっと待っとりんしゃい。着替えてくる。」

「は!?部活は?」

「サボるつもりじゃけど?」

「それはダメ。」

「何でじゃ?」


あ、コイツわかって言ってる。絶対。
何でわかるかって?
そりゃあ、コイツのこと3年間想い続けて、見続けて、クセくらいわかる。
多分、仁王は気づいてるけどね。
でも、仁王に捨てられた女みたいにはなりたくないから。
だから、諦めがつくまで、静かに・・・想い続ける。


「私が怒られても嫌だし。真田に殴られるのなんてゴメンよ。」

「そうじゃな。それじゃ、部室で待っていてくれんかのう?」

「部室って・・・良いの?私、部外者じゃん。」

「真田に頼んどおくぜよ。だから安心しんしゃい。」

「うん・・・。」


少しずつ、期待が大きくなる。
それを必死に押さえつけて、ポーカーフェイスを保つ。
1年前、仁王に捨てられた仲の良かった先輩から聞いたことがあった。












・・・私、雅治に捨てられちゃった。」

「え・・・。」


ビックリした。先輩と仁王は本当にお似合いだった。
最初、仁王はやっぱり年上の彼女が嫌だったのかと思った。
けど、次の先輩の言葉を聞いて、心底驚いた・・・。


「私、学校の帰りに雅治と手を繋ごうとしたの。」

「でも、その手を払いのけられて、こう言われたの。」


「俺は本当に惚れた女としか、手は繋がんのじゃ。」


「私のこと、遊びだったのよ・・・。雅治は。」


知ってた、わかってた・・・でも、と先輩はファミレスの片隅で泣き続けた。
私はそれを見ていることしかできなかった。
でも、それでも仁王に対する思いは消えることはなかった。












結局、部室で待ってることになり、私はそんなことを考えていた。
その先輩は既に卒業し、今は私達が3年生。
仁王の女遊びはその後も絶えることはなかった。
休憩中には、ブン太と赤也が構ってくれ、退屈はしなかった。
そして、部活終了の時間。


「みんなお疲れ。仁王、私外で待ってるから。」

「悪いのう、すぐ着替えるから少しだけ待っとってくれ。」

「うん。」


着替え見るわけにはいかないからね・・・。
部室の外に出るともう、日が沈みかけていた。
ずっと部室にいたから気づかなかったみたい。電気もついてたしね。


、待たせたのう。」

「ううん。」

「じゃ、帰ろうかのう。」


しばらくはお互いに他愛もない話をした。
部活内のこととか、勉強のこと。























































「・・・に、仁王・・・?」

「ん?」

「・・・手。」

、お前さん手小さいのう。ちょっとビックリじゃ。」

「え、いや・・・。手、本当に好きな子としか・・・・・・。」

「知っとったんか。さすがじゃのう。」

「・・・何、で?」

「最初っから気づいとった。中1んときから、アイツ俺に惚れとるんじゃろうなぁ・・・って。」

「うん・・・・・・。」

「アイツもきっと俺に寄ってきて、鬱陶しくなるな、って確信しとったんじゃ。・・・でも、」

「そいつは強かった。好きってことは自覚しとっても、それを押さえ込んで俺と普通に接する。難しいじゃろ?」


握られた手はそのままに、仁王は嬉しそうに語る。
コイツのこんなに嬉しそうな顔はテニスをしているとき以外、初めて見た。
・・・期待、しても良いの?
本当に、好きになっちゃうよ?ねぇ、仁王。
人を見下ろすようなその態度も、プリッとかピヨッとか変な口癖も、変な方言も。
全部、全部大好き。


「・・・捨てられたくなかった。仁王に。」

「強い女子は好きぜよ・・・。。」

「仁王のこと・・・好きになっちゃうよ?好きになっても良いの?」

「ああ・・・。、好いとうよ・・・。」


繋がれた手から、仁王の体温が伝わってくる。
意外と骨ばってて、やっぱり男なんだーとか。今まで知らなかった仁王を知ることができた。
仁王の顔が近づいて。
あと3センチ・・・2センチ・・・・・・1センチ・・・・・・・・・。

・・・好きじゃ。どうしようもないくらい。」

「仁王、好き。」

「雅治じゃ。」


また、口を塞がれる。目の前の人物によって。
もう依存だね、これは。後悔なんて感情、微塵もないけど。


「雅治、愛してる。」


今度は、私から。











嗚呼、
おしい