久しぶりの一人きりの休日だけど、何だか淋しい。








       静けさの中を駆け抜けて








 部屋に置いてある三人がけ用のソファに腰かけて、昨日買ったばかりの本を
 開く。

 両親・兄、共に外出中。
 起きたらもういなかった。
 テーブルには『出かけてくるから後よろしく。by母』の書置き。
 つまり家に一人でお留守番。
 家のパソコンの横には『今日荷物が来る予定だからよろしく。by父』のメモ。
 ……出かけられない。
 テレビのリモコンには『例のドラマの再放送の録画よろしく。by兄』の付箋。
 例のって、何ですか。分からないんですけど。
 新聞を開いて再放送のドラマを探す。二つあった。とりあえず両方予約しとく。

 私の家族ってメモとか好きだったのか…?
 兄さん、録画くらいは自分でやって。

 ちなみに、彼氏は部活で音沙汰無し。携帯のメールをチェックする自分が嫌になる。
 部活の、しかも部長さんだから忙しいのはわかるんだけど。

 部屋の時計はマイペースに時を刻む。当たり前なんだけれど。
 秒針の音さえしない時計。やっぱり、淋しい。
 時間を確認しても、前に確認してからあまり経ってはいなかった。

 ため息をついて時計から目をはなす。
 ふと携帯が目に入ったけど、どうせ鳴らないのだし、と思ってわざわざ自分から離れ
 た所に置いてくる。
 手元の本に目を移して読み始める。けれど何となく頭に入ってこない。

 「何かもう、ダメだ…」

 独り言。
 返してくれる声もなし。
 せっかくの本も読む気がなくなってしまった。
 何も、したくない。

 父さんの荷物…来ないな。多少の暇つぶしにはなるかもしれないのに。

 ソファにごろん、と転がって丸くなる。いつもなら眠くもなるのに今日は目が冴えてる。
 こんな時ばっかり…。

 しばらくそのままでいても時計の針は中々進んでくれない。
 
 そんな時だった。
 いきなり家の電話が鳴った。
 急だったものだからとっさの反応ができず、呆然とする。
 心臓がバクバクいってる。

 「も、もしもし?ですけど」

 ようやく取ったのは子機も鳴り出したころだった。

 『お、か?』

 ……え?
 声を聞いて驚く。

 『、携帯に出ぇへんのやもん。どうしたんかなーって思ててん』
 「け、携帯?鳴ってな…」

 携帯を確認する。
 ……マナーモード。
 そりゃ鳴らないよね。

 『え?何?』
 「い、いや。ごめん、手元に無くって気付かなかったわ」

 あながち嘘ではない。

 『手元に無かった、って。携帯なんやから携帯せんと意味ないやろ』
 「……おっしゃるとおりで…」

 返す言葉も無い。

 「ところで。部活は?終わったの?」
 『あぁ、まぁな。で、。これから時間あるか?」
 「へ?え、と、時間?」

 時計を見てしまう。
 見ても蔵ノ介の言ってる意味とは違うのは分かってる。

 『…。俺の言うてる意味、わかっとる?予定空いてるか、って聞いてんのやけど』
 「わ、わかってるよ」
 
 タ、タイムリー…。

 『で、空いてるん?』
 「えーっとね…」

 父さんの荷物が来てないからな。
 どうしよう。
 ……まぁ、いいか。

 「空いてる、よ(きっと)」
 『そう?じゃあちょっと来てほしいトコがあるんやけど…』


 電話を切ったとき、静かになったけれど。

 急いで、着替えるために部屋まで駆け出す。
 髪を整えて玄関を目指す。

 結局、父さんの荷物とは会えなかった。





 「蔵ノ介!!」

 いつもの場所に立っている蔵ノ介を見つけて駆けて行く。
 まだはっきり見えるわけじゃないけど、蔵ノ介が笑っているのがわかる。

 周りの喧騒なんて、聞こえない。







                               END




  **あとがき**

 未菜様。ありがとうございました。
 お題にそれているか些か疑問ですが、どうでしょうか?
 こんなのでいいのかな…。果てしなく不安。

 本当に参加させていただき、ありがとうございました!!

                        

                            2008/05/17