春うらら。
暖かいお天気の今日、私達は久しぶりのデートです。
【約束の時間まで、あと少し】
私の彼氏こと忍足謙也は、結構ご多忙の人。
かく言う私も、結構ご多忙の人。
私達はつい先日まで受験生という肩書きだった。
でもそれももう、昨日でおしまい。
昨日は、合格発表の日だった。
「約束の時間は12時……」
現在11時半。
私は既に待ち合わせ場所に向かっていた。
張り切りすぎた、そう後悔してももう遅い。
だって、家で時間を潰そうって、何をしてもそわそわそわそわ。
こんなんだったら、ええいもう向かっちゃえ!って。
そう思ったんだ。
待ち合わせ場所が見えてくる。
私は足を止めた。
「アホがおる……」
私は思わず呟いた。
人混みの中でも一際目立つ金色の髪は、正しく謙也のもので。
私は咄嗟に、謙也に見つからないように人混みに紛れた。
なんでもうおるん
人の影に隠れて謙也の方を窺ってみる。
謙也はそわそわして携帯を閉じたり開いたりを繰り返していた。
多分時間を見ているんだろうと思う。
自惚れかもしれないけど、きっと謙也も張り切っちゃったのかな。
だっていくら謙也がスピードスターだからって、待ち合わせの30分前に既にいるようなやつじゃない。
それに私が来た時には既にいたんだから、実際もっと前からいたのかも。
私はつい緩んでくる頬を両手で挟んで誤魔化した。
あーあ。
柄にもなくそわそわしちゃって。
ばっかみたい。
……私達って、
「似た者同士…やな」
小さな、本当に小さな声で呟いて、もう一度謙也の方を見た。
あ、また携帯開いた。
アホやなあ
そんな短い間隔で開いたって、時間進んでへんやろうに
にやにやと私は謙也を見守る。
約束の時間は30分後。
それまでは、ここでこうして謙也のことを見ていよう。
「うち、小悪魔っぽいなあ」
くすくすと笑って、もう一度謙也の方を見た。
時間ぴったりに行ったら、謙也は何て言うだろうか。
待った?ごめんなあ
なんてわざとらしく言ってみようか。
そうしたら謙也はきっと、少し赤くなって照れて言うんだ。
ううん、今来たとこやから大丈夫やって!
そんな謙也が易々と想像出来てしまう。
ああ、そんなことを言われたら、きっとふきだして笑ってしまう。
そうしたら謙也はどんな顔をするのかな。
きっと意味が分からないって、首を傾げて苦笑するんだ。
そして、思い出したように笑顔になって、きっとこう言うの。
合格おめでとう、。
って。
もちろん私達は違う学校に進む。
謙也は推薦で私立高校に、私は普通に公立高校へ。
離れてしまうのは怖かったけど、私達なら大丈夫だって、小さく指切りをした。
それから私がお礼を言ったら、少しだけその話をして。
その後は、お昼どこで食べようかって、相談を始めるの。
の好きなとこにしよっかあって、謙也は気を遣ってくれる。
謙也がいれば、そんなのどこでもいいのに。
でも今日の私は小悪魔気分。
絶対にそんなの言ってあげない。
ああ!早く時間が経てばいいのに!
私も謙也のようにそわそわしてしまう。
もう出ていってしまおうかしら。
うーん、でもやっぱりもう少し、素の謙也を見ていたい気もする。
でも、早く会いたい。
乙女心は複雑ってこういう事ね!
「…もうちょっとだけ」
もうちょっとだけ、我慢してて、謙也。
うちも、我慢してるんやから。
約束の時間まで、あと少し。
END.