全国大会。


我らが氷帝学園は、青学との試合で敗北を迎えた。







微笑むその姿が






負けたという事実に、泣いている暇はなかった。

今まで戦っていた一年生に、バリカンで髪を剃られていく景吾を、
マネージャーであり、彼女でもある私は、ただ呆気にとられて、
その光景を見つめていることしかできなかったのだから。



「・・・ちょ、あれ跡部になんて説明するんやι」

「とりあえず、気絶してる間に鏡とか隠しとけばよくね?」

「馬鹿、そんなの一時凌ぎだろ。絶対、すぐバレるって。」



侑士・岳人・亮の相談を黙って聞いていたのだが、
何かに動かされるように私は大声をあげた。



「狽チ馬鹿!暢気なこと言ってないで、早く助けてきてよ!」



私の形相が凄かったのか、三人は弾かれたようにコートへと走って行く。














「・・・・っ試合はどうなった!?」



医務室へと運ばれてからほどなくして目を覚ました景吾は、
ベッドの傍らに座っていた私の肩を強く掴んで、開口一番にそう叫んだ。

負けたよ。そう告げる前に、どこか暗い面持ちの彼らを見て、
全てを悟ったように、ゆっくりと肩を掴む力を緩めていく。



「・・・・・そうか。」



沈黙がやや続いた後、私は後ろに控えていた彼らに、
しばらく部屋の外で待っているように告げた。
笑顔を作ってはみたものの、上手く笑えていたかどうかは分からない。

ただ、何も言わずに微笑み返してくれたことが無性に嬉しかった。

静かに閉まるドアの音を背中で聞きながら、私は俯く彼の手をとる。
声をかけようと口を開いたが、出かけた言葉は彼に届く前に止まり、
閉じ忘れたように唇からは微かに息が漏れた。



「そんな不安そうな顔してんじゃねーよ。」



そこには、静かに微笑えんでいる彼がいた。



「・・・だって、・・っ・・・・」



全くの予想外。本当は泣くつもりなんてなかった。
なのに、景吾があんまり綺麗に笑うから、私の涙腺は見事に決壊し、
気付いた時には熱い雫が頬を伝っていたのだ。



「なんでが泣いてんだよ?」

「・・・っ・・景吾が泣かないから、代わりに泣いてるのっ!」



なんて無理やりな理由なのだろう。
自分自身、言っていてワケが分からなくなってきた。
それでもしょうがねぇななんて優しく笑って、
私の頭を大きな手で撫でるから、余計に涙が止まらない。



「・・・サンキュ。」



そっと撫で付けていた手のぬくもりが頬へ移ると、親指で涙を拭った。














その数分後に、彼は自分の髪をバリカンによって失われた事実に気付く。



、鏡。」

「・・・は、はい。」



自分の髪をあちこち確認しながら触りつつ、淡々と用件のみを告げた景吾に、
私は今すぐこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。

手鏡をそっと渡すと、しばしの間鏡と向き合う彼。






「ハっ、似合うじゃねぇの。なぁ、。」



鏡の前でニンマリ、そして樺地がいないので私に同意を求める景吾。
どんなに落ち込むかと思っていたけど、跡部景吾という男はこういう人間なのだ。
ともあれ、本人が似合うというなら、それでいいじゃないか。




「うん、似合ってる。」



髪の方も心配していただけに、ようやく本当の意味で安心した。
景吾は鏡を置きながら、その瞳を真っ直ぐ私に向ける。




「俺様はもう負けねぇ、次に泣かせる時は嬉し泣きだ。」






そこには、いつも通り不適な笑みを浮かべた男がいた。








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念願の跡部断髪式妄想がようやく書けて、一人満足しています。

OVAでは、自分で髪を剃るという男前な跡部でしたが、
あえて気絶したまま坊主にされたという方向で書かせて頂きました。

最後になりましたが、「silent ster」様へ。
素敵な企画へ参加させて頂きありがとうございました。


(08.04.17)