例え僕の物でなくても。 笑顔を独り占めしたいと思うのは、わがままですか? いつか花開くときまで 「不二先輩、お疲れ様です」 「ありがとう」 笑顔でタオルを差し出すに不二も微笑む。 渡して、えーと部長は・・・と辺りを見回すに、手塚はあっちに居るよと教えると ありがとうございます、とその方向へ走っていった。 今浮かべた笑顔は手塚に、他の部員に向けるのか。 そんな思いがふと頭の中によぎって不二は笑顔を消した。 部室で着替えた後に鞄からケータイを取り出す。 「もしもし?・・・姉さん、頼みたいことがあるんだけど・・・・・・」 ■■■■■ その日の夜、が寝ようとすると電話がかかって来た。 開くと、着信 不二周助の文字が点滅している。 ピッ 「不二先輩?こんばんは」 「ちゃん、夜遅くにごめん。寝てた?」 「いえ、大丈夫です。どうかしたんですか?」 こんな時間に不二が電話をかけてくるのは珍しい。 何かあったのかと心配になって訊くと違うよ、と少し笑われた。 「・・・ちゃん、明日空いてる?映画のチケットが余ってるんだけど・・・良かったら行かない?」 カレンダーをチラッと見てから返事をする。 の返事に不二は電話越しに微笑んだ。 「じゃあ明日の11時に青春台の駅でいいかな?」 ■■■■■ 15分前にが待ち合わせ場所に行くと不二はすでにそこにいた。 笑顔で手を振られての顔も明るくなる。 「ちゃん、こっち」 「すみません、待たせちゃいましたか?」 「大丈夫。それに女の子を待たせるわけにはいかないからね」 「は・・はい・・・・」 こんなこと言って不自然じゃないのはこの人だけだな・・・・ そんなことを考えつつ、どうしたの?と訊ねられて慌てて手を振る。 「じゃ行こうか」 「そうですね」 「あと・・・」 「10分・・・ぐらいですかね」 時計を見てが言う。 「まだあるね。ちょっと早かったかな」 「でも不二先輩と最近話して無かったから嬉しいですよー」 いつもの笑顔を向ける。 そう?と曖昧な微笑を浮かべて返してもまだドキドキしてしまう自分がいる。 「ちゃん」 「はい」 「・・・・ダメだよ。そんな表情しちゃ」 「え?」 不思議そうな彼女に意味ありげな笑みを向ける。 誤魔化すために、そんな笑顔を向けただけだったけれど。 「あっ不二先輩、始まりますよー」 「そうだね」 昨日姉の由美子に電話して取ってもらったチケット。 あんまり意地悪しちゃだめよ、と言われて受け取ったチケットはホラー映画だった。 予想通りに数分もせずにシャツがひっぱられる。 「ふ、不二先輩・・・」 「どうしたの?」 「怖いです・・・」 周りの人には聞こえないように、しかし震える声で恐怖を伝えようとする。 そんな彼女が可愛くて少しの間は見ていたが・・・ そろそろ泣かせてしまうかな・・・・? 不二としても泣かすまではさせたくない。 ちょっと外に出ようか、と彼女の手を掴んだ。 ■■■■■ 「あー怖かったです」 そのままをロビーへ連れ出して入り口へと歩を進める。 の表情もさっきとは打って変わって落ち着いてきた。 「怖かったね。でも可愛かったよ」 「ワザとですか・・・?」 「ごめんごめん」 笑わないで下さい!と怒りながらもの瞳は何故か曇っていた。 「どうしたの?」 「あの・・・不二先輩、見てたかったですよね?・・・ごめんなさい」 そう言って頭を下げる。 の突然の行動にびっくりするのもつかの間、不二は笑い出した。 「なっ何で笑うんですか〜」 「いや・・・君があんまり律儀だから・・・かな」 映画の間も見ていたのはスクリーンじゃなくて君の顔。 たまに怖くて目を瞑ったり、口に手を当てたり。 ころころと変わる君は本当に可愛くて。 気付かれても良いや、とずっと眺めていた。 それをそんな風に返されるとは・・・・ 「そんなに笑わなくて良いですよ!・・・・あれ?」 が立ち止まる。 どうやら道を間違えたようだ。 「こっちは反対の方だったかな」 「不二先輩、不二先輩」 先に行ったが振り向く。 「どうしたの?」 扉を開けるとそこには桜並木が続いていた。 「桜が満開ですね」 「これは・・・すごいね」 「うわぁ・・・」 木の下に駆けていくの後をゆっくりと追う。 散る桜の下では振り返って笑顔を向けた。 桃色の嵐の中で佇む彼女がとても綺麗で。 「綺麗だね・・・」 「・・・そうですね。とっても綺麗です」 桜も綺麗だけど、綺麗なのは君のほう。 「でも不二先輩の方が綺麗ですね」 「・・・?」 「綺麗ですよ、すごく」 「・・・先を越されちゃったな」 「え?」 「何でもないよ」 それだけ返して桜を見上げる。 無邪気に笑っていた、と思えばそんな事を普通に言ったり。 本当に・・・油断できないね 「・・・・不二先輩」 そんなことを考えていたら不意にが話しかけてきた。 「今度みんなでまた来ましょうね」 「・・・・・・・・・・・」 また笑ってそんなことを言うから、困惑する。 「・・・ダメ」 「何でですか?」 「ここは僕と君だけの秘密の場所だよ」 そう言うと、は数秒目を瞬いて、 「じゃあ来年も来ましょうね」 と言った。 そうだね、と笑って彼女の髪についた桜の花びらをとる。 こうして彼女と笑っていられるなら、独り占めでなくても良いかもと、過ぎる。 ・・・・今は、ね。 また桜の花が開くときには僕だけのものでいて。 そんな希望を込めながら。 silent star様、参加させて頂きありがとうございました。 お題にはあまり沿っていないかもしれませんが汗 ここまでお読みいただきありがとうございました☆ 080506 月村時音 |