関東大会、山吹対青学戦。
私たちは敗退という結果に終わった。



最後のシングルス戦のあと、戦ってた本人がふらりと行方不明になった。
みんなを慰めるのに必死な南や東方には探しに行く余力はなさそうだったので、清純に一言言ってから亜久津探し。

私が亜久津を探してくる、というと清純は「今日くらいは放っておいていいんじゃないの?」って言ってきたけど。



「今日だから、ひとりにしておけないの」


そう言ったら、清純はすこしだけ悲しそうな笑顔を見せた。
うん、その仕事はマネージャーのにしか出来ないからね、って。







だいたい亜久津が居そうな場所も分かってきた。
人が通らない、奥まった場所。

煌々ときらめく自動販売機とは対照的な、真っ黒いオーラを発する銀髪。



亜久津はただ空を見上げてた。
ベンチにどっかりと座って、ただ、沈む夕日を見てた。



「…団体行動を乱さないでよねー」
「チッ」



声を掛けると案の定の答え。
強がったって、知ってるんだから。
そう言うと、うっせぇバーカ、と帰ってきたけど。やっぱり、強がってるの分かってるんだよ。


練習したがらないけど、出てきた日はやっぱりすごく頑張ってたし、
太一くんがくっついてくるのは、亜久津が本当は優しいのを知ってるから。

わざと冷たくして、自分がいなくても山吹を勝たせたかった、そうでしょ?



次に繋げる為には勝たないといけなかった。
でも勝てなかった。

「満足だ」とかなんとか言っちゃってるけどもう後には引けない、亜久津なりのすごく不器用な優しさ。
…素直じゃないんだから。




だから、私も不器用な優しさをあげようか。




持ってきたタオルを、まだ空を見上げる亜久津の顔に掛ける。
普段ならすぐどけるだろうけど、今日はそのまま乗せていた。…まったく、もう。




「…誰にも言うんじゃねーぞ」
「分かってる」



交わす言葉は少なくても、伝わる気持ち。

黙って涙を流す亜久津を、私は立ったまま、何も言わずにそっと抱きしめた。
普段なら絶対にしないようなことだから、亜久津もびっくりしてたけど、今日だけは甘えてくれた。
私をぎゅっと抱きしめるそのがっしりした身体。
いつもなら、自信に満ち溢れてるそれが、今はすごく儚げに映る。




「…何もしてあげられないから、」
「気にすんな。のせいじゃねぇ」
「でも……」
「…俺こそ、勝たせてやれねぇで、悪りィ。ジジイの考えなんて知らねーが、俺は俺の意志で試合したんだ」
「知ってるよ、だから」
「だから、…謝んな。謝んじゃねーよ。俺の立場がなくなるだろーが」
「ごめん…あ、」
「バカかテメェは。…まあいい。そんなとこが好きだからな」




そこまで言って、亜久津は抱きしめていた腕を緩めて、しっかりと目を合わせてきた。
少し泣き腫らしている目。
その目を見ると、我慢していた涙が溢れてきた。



「…なに?」


頑張って、笑おうとする。でもきっと出来てない。
そんな姿を見て、亜久津は苦笑しながら私の顔をそっと指で拭う。まるで大切なものを扱うように。

そしてもう一度、、と名前を呼んだ。






「…まだ、俺の傍に居てくれるか?」





当たり前じゃない。
だってその涙が本物だってこと、私は知ってるから。
他の誰が信じなくても、私は君のことを信じてるから。






焼け空を上げた日

上を向いていたのは、涙を我慢した強がりってこと、分かってたんだよ。







fine





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Photo by 空色地図
企画サイトsilent star様へ
実は2人は付き合ってたりするかもしれません。(え)
亜久津がヘタレっぽくてすみません。あっくん大好きです。(2008.04.12)