恋の病につける薬なし









 「兄さん、どうしたんですか? 最近、溜め息ばかりついてますよ?」海堂の弟・葉末が心配気に聞いた。

 「フシューーーーーー。」キッと葉末を睨み、溜め息をつく海堂。



 駄目だ!! 明日はテストがあるのに全く頭に入らねぇ!!! 海堂の虚しい心の叫び。
 



 中学3年になり、クラスもと一緒。しかも席も隣同士。はたから見れば、恋愛関係として、贅沢すぎる悩みかもしれない。
 しかし、海堂にとっては、大きな問題があった。



 隣のの事が、気になって仕方がないのであった。

 の髪をかきあげる仕草、ノートを取っている姿、質問する姿・・・とにかく、隣の席になってから、海堂はから、目が離せなくなったのであった。
 
 ついの姿を追ってしまう自分に、海堂は、パン! と手で自分の頬を叩いて気合を入れる。



 いつも、デートでの隣を歩いて来たのに、席が隣、ただそれだけで、こんなにも意識してしまう自分に驚く海堂であった。



 そうか!


 海堂は気が付いた。

 近くにいる時間が長いんだ! と。




 放課後。


 近くの公園。




 「え? 席を替わる?! ちょっと、何で?! せっかく一緒にいる時間が長くなって嬉しいのに・・・!」が驚いた。無理もないだろう。


 「悪い・・・。お前が隣にいるのが、・・・その・・・辛いんだ。」海堂がから視線を外して言った。



 「!!!」は、一瞬頭の中が真っ白になった。



 別れの・・・言葉・・・!?



 の瞳から、涙が溢れ、大きな雫となって頬を伝って行った。

 「?」海堂が唖然としていた。


 「・・・分かった・・・。もういいよ!! 一緒にいて辛いんなら、一緒にいる意味なんてない! 私の事、好きじゃなくなったんなら、別れてあげるよ!! ばか!!」 はそう叫び、涙を拭いながら走って行った。
 

 残された海堂は、今、何が起きたのか、さっぱり分からなかった。


 何故泣く!? 
 何故別れる!?
 一体どういう事だ!?


 海堂は、の後を追った。

 そして、公園の出口で、海堂はに追いつき、腕を掴んだ。


 「わ、別れるって・・・どういう事なんだ?」
 「放して!」が海堂の腕を振り切った。まだ涙は止まっていない。


 「。」
 「気安く呼ばないで! もう彼氏彼女の関係じゃないんだから!」
 「!? 何の事だ!?」動揺する海堂。
 「マネージャーも辞める! そばに来ないで!!」の興奮は最高潮となっていた。



 「!」海堂はの肩を掴み、・・・・キスをした。


 「頼む、落ち着いてくれ! 何でお前が泣いているのかも分からねぇ。何で怒っているのかも分からねぇ!」必死な海堂。


 「・・・・・『辛い』んでしょ?! 私といると・・・。・・・だったら別れるしかないじゃない・・・!」泣きながらが呟いた。



 「そ、そういう意味じゃねぇ!!」海堂は、ようやく勘違いを理解し、をぎゅっと抱き締めた。

 「・・・・・・・。」沈黙の



 「・・・・その・・・・駄目なんだ・・・。、お前の隣にいると、お前の事が気になって仕方ねぇんだ。確かに隣の席は嬉しい。・・・だが・・・・ドキドキして授業に集中ができねぇんだ。だから・・・だから、隣にいる時間を短くすれば・・・・・集中できる・・・・・・・そう思った。」

 「・・・・・・・・・。」沈黙の。涙は止まっていた。



 「それで・・・・。」海堂が更に話を続けようとした時、が呟いた。

 「私の事、好き?」と。
 

 「当たり前だ! 好きで好きでしょうがねぇ!! だから俺は・・・・!」海堂がを抱き締める手に力を入れた。


 「ばか。」が呟いた。


 「・・・デートの時は、あんなに長い時間一緒にいても、ううん、一緒にいるからこそ、嬉しい。そうじゃない? そう思うのは、私だけ?」いつしか  の口元がほころんできていた。
 「俺も・・・同じだ。」


 「だったら、学校で隣に居る事が気になるなら、学校でデートしてる気持ちに切り替えてみるっては、どう?」
 「デート!?」
 「そ。一緒にいる時間を楽しもうよ。」


 「・・・・。」


 「ふふっ。」が笑みを浮かべた。


 「・・・俺がバカだった。」海堂は、そう言い、深い溜め息をついた。

 そして、2人は唇を重ね合わせた。 


 
 


 「兄さん! やりましたね!!」路地から突然葉末が現れた。

 「は、葉末君! どーしたの!? え? え? ずっと見てたの!?」顔を赤くする


 「はい。兄さんが毎日どんよりしていて、心配してたんですよ。もしかして・・・『恋の病』とか!? って思って、どう解決すれば良いのか考えてたんですよ。さすが  さんですね、あっさりと解決出来るなんて。」真顔で語る葉末。




 「葉末〜〜〜〜!! フシューーーーーー!!」海堂、マムシ度マックス。

 「兄さんっ! うわぁ、じゃ、また家に遊びに来て下さいね〜!」葉末が走って行った。
 「まて、こらーーーーーー!」それを追いかける海堂。





 こうして、海堂は、授業に集中出来るようになったのであった。