些細な喧嘩





大きな溜め息が一つ。
屋上には1人の少女。
5時間目のチャイムがなったのを聞いて、少女は壁に寄り掛かりながら座った。



「…………はあ…」

「あれーちゃんだー」

「うわっ、ジローちゃん…」



と呼ばれた少女は声のした方を向く。
そこにいたのは芥川慈郎という、所謂跡部の幼馴染みがいた。



「なにしてるの、そんなとこで」

「昼寝ー」



はクスリ、と小さく笑った。
芥川はそれに気分を害すわけでもなく、の隣りへ腰を下ろす。
金色の髪が太陽の光に反射して眩しかった。
はそれを見ながら、真っ青な空にも目を向ける。



「で?ちゃんはー……」

「ん?なに」

「喧嘩したんだってね」



跡部と、と付け足された言葉には頷く。
芥川はの表情を盗み見たがそこには何も感情がなくて、まいったなあと思う。
難しいと、そう芥川はと跡部の関係を例える。
なにも難しいことはない、と跡部は普通の恋人だ。
だが、芥川は2人の考えることがあまりに自分と次元の違うところにあるので難しいと思うのだ。



「なに喧嘩って、めずらしい」

「…………ほんとにね」



立ち上がったを芥川は座ったまま目で追う。
屋上の柵に手をかけたがこちらに手招きをした。
芥川はおっくうになりながら立ち上がり、へ近付く。



「あれ、景吾なんだ」

「あ、ほんとだー」



そういえば今日の5時間目、跡部のクラスは体育だったなと芥川は思い出した。
そうしてに指差されたここからではあまりに小さい人を見る。
しばらく見ていれば彼の周りには多くの女生徒が集まった。
芥川は隣りから小さく笑う声が聞こえて、横を見る。



「あれがね、喧嘩の原因なんだ」

「………は…?なにそれ、嫉妬ってこと?ちゃんが?」

「そう、なのかな…って、ジローちゃん私だって嫉妬くらいするよ」



芥川は心底驚いた様子での話を聞いた。
嫉妬、なんてならば鼻で笑って子供っぽい。
と、そう思っているだろうと思っていたのに。
芥川はの言ったことがいまいち信用できず、ふーんと小さく返事を返す。



「……嫉妬なんかしないと思ってた…」

「嫉妬…っていうのかなあ。なんかアレ見てるとすごい悲しくなるんだ」

「なんで」

「私だけじゃないから」



彼を見るのをやめたは、柵に背を預ける。
芥川は未だに女生徒に囲まれる彼を見ていた。



「なにが」

「……景吾の意識の中に存在するのは私だけじゃないんだな、と思って」



は、と芥川が溜め息ともとれる声をもらした。
芥川には全くその意味が分からなかったからだ。
ただ、言いたいことは分かるのだ。
けれどそれはのように確かなものとして感じるものではなく、感覚として分かるものだと芥川は思う。
だからそう言われても返す言葉が見つからなかった。



「難しいー」

「そう?…そうなのかもね」



がどこか遠い目をしたのを横目で見て、芥川も柵に寄り掛かった。
会話をするわけでもなく、ただ運動場から小さな声が聞こえるだけだった。
少しすると、芥川の耳に屋上の階段をかけ上がる音が聞こえた。
それはどこか急いでいて、もしかして…と思う。



!」

「…景吾」



先刻まで話の中心であった跡部が突然現れたことには驚いた様子で柵から背を離した。
ふあ、と欠伸を一つして芥川は自分から離れていく背中を叩く。
が振り向いた。



「それ、ちゃんが不安なだけじゃない?跡部にちゃんと言わなきゃ」

「……ジロー?」

「あ、跡部今度なんか奢ってねーばいばーい」



バタン、と跡部が開けた扉が芥川によって閉められた。
そんな芥川を見送っては考えこむように、1度離した背をまた柵に預け、
それから半回転して校庭を見た。
そこにはもう女生徒の固まりはなかった。



「なんだアイツ……」

「私、不安だったみたい」

「………へえ……」



面白くないという声色で跡部が近寄ってきたのをは感じて、再び半回転する。
そこには不機嫌そうな顔をした跡部がいた。



「で?どうして跡部様はこんな所に」

「つーかジローに相談してんじゃねえよ」

「べつにしてないよ、喧嘩した?って聞かれたからそれに答えただけだもん」

「一々無駄なこと言ってんだろ」

「……なに?随分つっかかってくるね」



どうしてか喧嘩ごしの跡部をは不信に思う。
確かに自分たちは喧嘩をしたが、その喧嘩だって本当に些細なものだ。
それなのになぜ。



「で?ジローと何話したよ」

「……べつに。ただ私不安だったんだなあって思って」

「なんで他人から言われて気付くんだよ。
だいたい不安ってなんだよ」

「なんでもない」



その言葉を聞いて跡部の顔が険しくなった。
それを見てはおや、と思う。
こんな表情を見るのは始めてで、だからどうして跡部がこんな複雑表情になったのかは分からなかった。
それも小さく呟かれた言葉で何となく分かったが。



「お前はいっつもそうやって片付けんだな…、俺には何にも言わねえ」

「……なに…、嫉妬したの?ジローちゃんに?」

「あ?変な言い方すんなよ、誰がんなこと言った」

「自分の幼馴染みじゃない。」

「おい、聞いてるか俺の話」



唖然としたはもう跡部の話など聞いていなかった。
要するに跡部は、自分の前ではなんでもないと勝手に終わらせるくせに、
芥川の前で弱味を打ち明ける(まあ弱味ではなかったが)のが許せないのだろう。
と、そこまで考えてもやはり跡部が今抱いてる感情は嫉妬だ。
自分が彼の周りにいた女生徒に感じた浅はかな嫉妬とは、種類が違うが。
それでもは跡部という完璧主義の人間にも嫉妬という感情があったことに驚いたし嬉しかった。



「意外」

「……人の話を聞きやがれ」

「…………」

「なんだよ……」

「いや、なんでも……」



口を手で塞がれては少しの怒りを顕にする。
跡部はそれをしばらくして、何かに思い当たったように手を離す。
ふう、とは息を吐き出した。



「なんでもないは禁止だ」

「……はあ…?」

「お前俺に何かを隠す時必ずそれ言うだろ」

「………そうかもね」

「だから禁止だ」



お前ならこの意味分かるだろう?
と跡部に問われて、そしては返事の変わりに笑顔で答えた。



後書き

こんなどうしようもない駄文ですみません!
読んでくださった方ありがとうございます、そしてごめんなさい!

結局どうしたかったのかどういう結末になったのか
自分でもよく分からないことになりましたが、うん気にしない!(…)

最後に企画を立ち上げてくださった 跡部未菜様。
ありがとうございました。