別に特にかわったことはなかった。わたしたちはわたしたちのままだし、わたしたちの関係がかわることもなかった。きょうが誕生日とかそういうわけでもないから、何が変わったといわれても『わたしたちはみんな、そういう日を迎えただけ』としか言えない。
いつものちいさなマンションの一室で昨日と同じようにソファに座る深司くんの隣でテレビを見る。

細いけれどしっかりとした深司くんの腰にぎゅうと抱きつくけれど、深司くんは特に気にしないといった様子で煙草に火をつけてふかしはじめた。もくもくとあがる灰色。回す腕にさらに力をいれてみたけれど、やっぱりこっちなんか見向きもしない。そのかわりに昨日と同じ大きな手でわたしの頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。深司くんがふう、と吐き出した息はもくもくの輪になってそこらへんをうようよ漂った。喉の奥がいがいがする。咳払いをした。

「深司くん、わたしたばこね、あまりすきじゃないの」
「ふうん。じゃあやめる」
「いいの?」

別に、ただ二十歳になったんだから1回吸っておこうと思って、と深司くんは続ける。深司くんは立ち上がって窓を開け、今度はコンビニのビニル袋からチュウハイを2本とりだした。
おとなになるってなんなのか分からなかったし、分からない。煙草を吸えればおとななのか、お酒が飲めればおとななのか、そういった表面的なことじゃあなくて、もっと奥の内側を知りたい。

「飲む?」
「飲まない、においきらい、酔っちゃう」
「そう。付き合い悪いね」
「別れる?」
「ううん、別れない」
煙草くさい部屋に透明な空気が入ってきて、空間をクリアなものに変えていく、と思った矢先に深司くんがあけたチュウハイのせいで今度はアルコールのにおいがみるみるうちに広がった、また透明になっていく。これがおとなのにおいなのかといわれたらやっぱり違うんだろうけれど、じゃあなにがおとなのにおいなんだと聞かれればそれもそれで分からない。ただ、おとなになって得をすることなどないとおもうのだ。少なくともわたしは。
「やっぱりわたしおとななんていやだな。だからきょうが終わるまでこどもね」
「あと2時間しかないけど?」
「それでもいいの」
2時間、何をしたいわけでもない。ただあと2時間こどものわたしたちがこの部屋ですごす最後のこどもの時間をたいせつにしたいのだ。こどもというのが何なのかと聞かれればそれもまた、分からないのだけれども


あと、少しだけ
企画、silent starさまに提出させていただきました。すてきな企画に参加できてしあわせです、ありがとうございます*