声を聴かせて
「。」
その人は、優しく私の名前を呼ぶ。
そして、私は幸せを感じる・・・。
2月14日。
テニス部合同学園祭から付き合い始めた手塚とにとって、今日は、初めてのバレンタインデー。
「国光さん・・・!」
「どうした?」
「学校に入る前に渡したくて・・・。」はモジモジしながら、手塚に紙袋を渡した。
手塚が中身を確かめる。
「これは・・・。」
「は、はい! そういう事でお願いします!!」そう言うと、は走って校内に消えて行った。
放課後。
手塚とは、いつも校門で待ち合わせをして帰っている。
待ち合わせ場所に手塚がいるのを確認したは、そっと忍び寄った。
「手塚先輩!! 好きです!!」
「!!」の鼓動が、ドクンと大きく波を打った。
何てタイミングが悪いんだろう・・・告白の場に出会うとは・・・。きっと他にも、色んな人からチョコ・・・貰ったんだろうな・・・。
は締め付けられる様な不安と、嫉妬に襲われた。
「すまない。気持ちに応えられない。」手塚が丁寧にお断りをした。
告白した女子が泣いている・・・。複雑な心境で様子を伺う。
「どうしても・・・駄目・・・ですか?」女子が頑張っている。
「ああ。」
「テニスで忙しいのだって・・・我慢しますから!」
「テニスの事で断ったのではない。俺には好きな子がいて、すでに付き合っている。だから、受け取れないんだ。」
女子はようやく諦め、涙を拭いながら去って行った。
「。」
「!!」
「もうそろそろ姿を現せても、良いんじゃないか?」
おずおずとが影から出て来た。
「では、帰るか。」
「あ・・・はい。」
「・・・・・・・・・・。」沈黙の二人。
「今朝はチョコをありがとう。」手塚が沈黙を破った。
「い、一応手作りなので・・・味の保障が・・・。」苦笑いで話す。
「そうか。手作りか・・・。」
「・・・きっと、私のチョコよりも、他の人のチョコの方が美味しいと思います。」ああ、困らせる言葉だ・・・。
「他のチョコなんて無い。」
「え?」がキョトンとした。
「のチョコがあるだけだ。」
「ええ!? 何でですか!? 学校で毎年一杯貰ってるって、大石先輩が言ってましたよ?」
「まぁ、差しし出されるが、受け取ってはいない。毎年、な。今年は、、お前のチョコが楽しみだった。」
「国光さん・・・。」が嬉しさで満たされていく。
「だから、その・・・ちゃんと渡してくれないか? 今朝は、何も言わずに、渡されたからな。」手塚が照れながら注文した。
公園。
「あの・・・やっぱりやり直ししないと・・・駄目ですか?」が手塚へのチョコを握り締めた状態で固まっていた。
「・・・・・・・。」沈黙の手塚。しかし、その目は、『ちゃんと渡せ』と言っていた。
「・・・えと・・・国光さん・・・好きです。」は照れながらも、笑顔で手塚にチョコを渡した。
「俺もの事が好きだ。ありがとう。」手塚が笑みを浮かべた。
そして、手塚がにキスをし、抱き締めた。
「他の男子には義理チョコ・・・渡したのか?」
「いえ。これまでは渡してましたけど、今年からは中止です。」手塚に抱き締められながら、が言った。
「そうか。嬉しい。」
「もしかして・・・心配・・・してたんですか?」
「当然だ。俺だけに渡して欲しかったからな。」ぎゅっと力を入れて、を抱きしめる手塚。
「ふふっ、私も・・・国光さんが、他の人からチョコ貰ってたら・・・って心配でした。」
「心配かけたな。」
「お互い様ですね♪ 同じ事考えていたなんて、ちょっと嬉しいです。」
「ああ、俺も嬉しい。いつも、俺だけの事を考えていてくれ。」
「はい、勿論です。国光さんが大好きですから。」が満面の笑顔で応える。
手塚は、再びにキスをした。
そして、の耳元で、「愛している。」と呟いた。
「もっと国光さんの声、聴かせて下さい。」
「誰よりも、を愛している。これからも、ずっと・・・。」