『ねえ、あたしの事、好き?』
一度だけ、どうしても気になって聞いてみたことがある。
若と同じクラスになること8回目。
つまり、幼稚舎からずーっと同じクラスなわけで、大の仲良しと言ってもいい関係だ。
でも…
「何をいってるんだ?」
読んでいた本から顔を上げ、眉間に皺をよせてたずねてきた。
『もー、そんなに嫌そうな顔しなくてもいいでしょう?ほら、返事は?』
催促すると、若は溜め息をついて視線を本に戻した。
『あたしは、若の事好きなんだけどなー』
…反応ゼロ。
流石のあたしもコレには怒った。
『もういい!若なんかしらない!』
ちょっとは反省してくれるかな?
追いかけて来てくれるかな?
そんな思いを抱いて、あたしは教室を飛び出した。
時間は、昼休み残り5分のところ。
早くしないと、授業始まっちゃうぞ。
そんなあたしの考えは、昼休み終了のチャイムと同時に崩れ去った。
いよいよ悲しくなったあたしは、テニス部の部室へ向かった。
ここなら、誰かいるはず。
オレ様部長でも、変態伊達眼鏡でも、いまはどうだっていい。
誰かに傍にいてほしかった。
でも、世の中は変なところで意地悪だ。
部室の扉を開くと、そこにはいつもの暖かい雰囲気は無かった。
無人の部室で、あたしはテーブルを囲む椅子の一つに腰かけた。
いつも若が座ってる場所。
ちょっとした冗談で始めたはずなのに、すごく悲しい。
一人でいるという事が、若が傍にいないという事が、すごく痛い。
ひとりでに溢れる涙を拭う事もせず、あたしはテーブルに突っ伏した。
視界が暗くなる。
零れた涙が顔中に回って気持ち悪い。
いつもは感じない隙間風が、やけに冷たい。
…若
「何をやってるんだ?」
聞きなれた声に顔を上げる。
そこには驚いた顔の若が立っていた。
「なんで泣いてるんだ」
そう言って、あたしの頬に伸ばされる手。
あたしはそれを振り払った。
さっきより驚いた顔。
そして、とても悲しそうな顔。
『なんで、そんな顔するのよ…』
「、『なんとも思わないんだったら、そんな顔しないでよ!』…」
『別に、彼女にしてって言ったわけじゃない。付き合って、って言ったわけじゃない。
ただ、好き?って聞いただけなのに…嫌いなら嫌いって、ちゃんと言ってよ…
そうじゃないとあたし…いつまでも付きまとっちゃう…』
必死で叫んだつもりだった。
でも、その声はほそぼそと紡がれただけだった。
話している内に、また涙が溢れそうになって、必死で我慢した。
泣いちゃだめだ。
「別にオレは、お前の事を…嫌いだと思ったことはない…」
突然降ってきた言葉に、あたしは驚いて若を見上げた。
椅子に座ったままのあたしからは、若の顔ははっきり見えた。
少し俯いていても、真っ赤になった顔は丸見えだ。
『…じゃあ、あたしの事、好きなの?』
あたしはもう一度問いかけた。
「嫌いじゃない」
今度はちゃんと返ってきた。
『嫌いじゃないってことは、好きってこと?』
「さあな」
好きって言ってもらえなくてもいいの。
望んだ答えじゃなくても、貴方の想いは伝わってるから。
調子のいいあたしは、
貴方の言葉を全部、
あたしへの愛の言葉に変えちゃうからね?
だから、
傍にいてくれるあなたが好き
Fin.
2009/04/19 野良猫