見上げると今にもしずくが零れ落ちてきそうな真っ暗な空。
私の心はもう土砂降りだよ。さっきからずっとずっと・・・




『あなたが好きです』

『ごめん』



そんな簡単なやりとりで、私の恋は終ってしまった。
私はひとつ年上の先輩が大好きで、大好きで、大好きで・・・・
多分、こんなに好きになったのは・・・・初めて。


初恋・・・・だったのかな・・・・多分。
でも、その初恋は実ることは無かった。実らず枯れてしまった。
「初恋はうまくいかない」そんな事誰が決めたのよ?
そんな迷信私が打ち崩してやる!って、ずっと思ってたのに・・・・

ごめんね、誰だか分からない人。
その迷信。合ってました。悲しいくらいにね・・・・





ポツ、ポツ、ポツと とうとう、耐え切れなくなった大粒の雨が空から降ってくる。
結構な量が降ってきたけれど、私は傘を持っていないし、持っていたとしてもささなかっただろう。


「今は雨に濡れたい気分だー・・・・」


私は、家の近くにある小さい公園に入った。
公園と言っても、小さいベンチが1つあるだけの空き地のようなものだった。
雨の中傘もささずにベンチに腰をかけ、目の前にある花壇を見つめている。

傍から見ればとても変な光景だと思う。
だけど、私はそんな事考えられるほど余裕なんてなくて・・・・
ほら、さっきからこんなに胸が痛いの・・・・


涙がとまらないの・・・・
丁度どしゃぶり、丁度良いでしょ?
私の涙、雨で隠してよ・・・・




パシャッパシャッパシャッ


雨の中を走っている足音が遠くに聞こえた。
と、思えば、だんだんこちらへ近づいてくるような気配がする。
私は顔を伏せていたから、その正体が誰なのか分からない。

御願いだから今はひとりにしてほしい。そっとしておいてほしい。
そんな願い虚しく、その足音の正体は自分の前で止まった。


「はぁ・・何してんの・・・・ンなトコで・・・はぁはぁ・・・・」


突然降ってきた雨に急いで走ってきたのか、相手は息が切れている。
この声、私はよく知っている。
小さい頃からずっとずっと、どんな時も一緒に遊んできた相手・・・・
腐れ縁というか、幼馴染というか・・・そんなヤツ。


「赤也、御願い。今はひとりに「できるわけないだろ?」


私の声をさえぎる様にして、赤也がきつく言葉を発した。
・・・・なんで・・・・なんで、赤也は怒ってるの・・・ワケ分からない・・・・
私の方が怒りたいよ・・・・ひとりにしてほしいのに・・・

私は悲しいの!大好きだった先輩に簡単に振られて・・・・
即答だよ?仲良かったのに・・・・仲良かったから、もしかしたら!とか思ってて・・・・
それがワンテンポ置く暇もなく「ごめん」って即答されて・・・

ホント・・・・バカなんだよ・・・・私ッ



「御願いだから一人にしてよ!!!!!」

「そんなボロボロなヤツひとりにしておけるわけないだろ!!!」


赤也のいつに無く真剣で、怖い声に私は体をびくりとさせる。
それを見た赤也は「ワリィ・・・」と謝ると、私の隣に腰を下ろした。


「うえぇ・・・つめてぇ。ほら、お前は?冷たいだろ?こんなトコにいないで早く帰るぞ」


赤也が私に手を差し出してくれる。
けど、今の私に赤也の手を掴むだけの余裕は残ってない。
赤也の手を無視するかのように、赤也から体ごと顔をそらした。



御願いだから放っておいて・・・・



赤也の優しさを無視するのは正直辛かった。
だって、小さい頃から仲良くて。私が泣いてるといつも走ってきてくれて。
隣に座って「よしよし」って頭を撫でてくれる・・・・
私が泣き止むとニカッと笑って「明日からはもう元気だよな?」って言ってくれて・・・
それで・・・・それで・・・・


でも、今日だけは。今日だけは。
この優しさが痛かった。辛かった。・・・・・苦しかった。
今は優しくしないで。御願い。もっと辛くなるから優しくしないでよ、赤也。



私の頭の上にいつものように優しい手がふわっと乗った。

「なぁ」

ただひとつ違っていたのは、赤也の真剣な声と眼差し。
・・・・今日の赤也はなんか可笑しい・・・・。


「何があったんだ?・・・なんて、そんなヤボな事は聞かない。
 っていうか・・・俺、見てたんだよ。」

「えっ・・・・何を・・・・?」


私は自分の耳を疑った。
あんなダサい告白シーンを誰かが見ていたなんて・・・・
しかも、それが赤也だなんて。

なんでなんでなんで!?


「信じられないッ」

「ごめん!悪リィとは思ったんだけど・・・・でもさ、どうしても・・・・気になったんだよ」
「私がいつも相談してたから・・・?」


そう、私はいつも赤也に相談をしていた。・・・・先輩の事を。
先輩と赤也はとても仲が良くて。よく一緒にいるし・・・・
だからっていうか、幼馴染だから話しやすいっていうのもあったし・・・・
心配してっていう事にしたって人の告白現場を覗き見るなんて趣味悪すぎる!!

そんな事を考えていたのが全て顔に出ていたのか、赤也はすごく申し訳なさそうにうな垂れた。


「本当にごめん・・・」

「もう・・・・仕方ないよ。見ちゃったもんは見ちゃったんだし・・・・」


終っちゃったもんも終っちゃったんだし・・・・
そう思ったらまた、涙が出てきた。どうしよう・・・・思っていたよりもショック大きいのかも。


「ひっく・・・うっ・・・うぅっ・・・・」

・・・・」


私の名前を切なそうな声で呼ぶと赤也は、頭の上においていた手を下ろした。
どうしたのかな?っと思い、ふっと赤也に目をやった。
その時、赤也が私の腕を勢いよく引いた。

私はなんの構えもなしに引かれるがままに赤也の方へ倒れこんだ。
びっくりして慌てて起き上がろうとすると、赤也がそのまま私を強く抱きしめた。
えっ・・・・何?・・・・どうしたの・・・・?



「あっ・・・・赤・・也・・・・?」


「俺は・・・・を絶対に・・・泣かせたりしない」


赤也のいつになく真剣な声が耳元で聞こえる。
赤也に強く抱きしめられた腕の中は妙に心地が良くて自然と胸が高鳴っていく・・・・
いつもの・・・・赤也じゃない・・・・


の笑顔は俺が守る」

を泣かせるようなヤツ・・・もう諦めちまえよっ!」

「俺はずっと・・・・ずっと、だけを見てきたんだよ。
 でも、は俺の気持ちなんて気がつきもしないで違う男に惚れて
 振られて、傷ついて、雨の中でボロボロになって泣いて・・・
 そんな思いさせるようなヤツ。俺が、俺がっ!」


「あか・・・や・・・・?」


なんで・・・・?なんで赤也が泣くの・・・・?
・・・・・違う。違うよ、私。

赤也は、今まで今の私と同じ痛みをずっとずっと背負って。
それでも私をまだ好きでいてくれて・・・・
こんなに痛いくらいに想ってくれていて・・・・

「あか・・・や・・・ちょっ・・・苦しい・・・」

「あっワリィ・・・・」

赤也の腕の力が緩んで、私は赤也と少し距離を置いた。
小さい頃はなんともなかったのに、今では身長だって私よりも高くて
体格も良くて、腕の力だってこんなに強くて・・・・

赤也・・・・



「ね、赤也・・・・」

「ん?何?」


・・・・・やっぱり。


「やっぱり・・・ね。私、まだ簡単に先輩を諦めたりとか・・・っていうか・・・
 まだ、吹っ切れないの。振られたけど、まだ好きっていうか」

私が申し訳なさそうに赤也に伝えると、そんなのは全てお見通しなのか赤也は
私の目を見て悲しそうに笑いながら頷いてくれた。

「うん。分かってる。俺だって、もう何十年も諦めきれないんだぜ?
 いや・・・・諦め切れないんじゃない。諦めてなんかいない。最初から・・・・」


赤也の目が私の目を正面からとらえた。
テニスをしている時と同じ、真剣な目をしている・・・・


「俺、が好きだから。今も昔も変わらない。いや・・・毎年、年を重ねるごとにどんどん。
 が好きになっていく。俺はいつまででも待ってる。が、俺に振り向いてくれるように・・・
 俺!日々男を磨くからよっ!」

「赤也・・・・」


「だから、今日いっぱい泣いて、早く気分晴らしちまえ!
 そんで・・・・明日からまた、笑ってくれよ。・・・・の笑顔が俺は好きなんだからさ」


そういう赤也の顔がすごく優しくて・・・・悲しくて・・・・
さっきまで、とまっていたハズの涙がまたあふれ出した。

先輩に振られて悲しかった事へ対する涙。
赤也の優しさに対する涙。
自分へ対する怒りの涙。

いろいろな感情が混ざってすごく複雑で・・・・苦しいけど、明日にはまた笑えるように。
・・・・・赤也の為に笑ってあげようかなって・・・・ねっ


トクン・・・・


くすっ
赤也っ!なんか・・・・赤也の気持ち・・・もう届いちゃったかも・・・ッ!




気がつくとさっきまでザーザー降っていたはずの雨はピタリとやんでいて・・・
雨上がりの綺麗な空が広がっていた。
雲と雲の間からうっすら夕日が差し込んで、葉についたしずくをキラキラと照らしている。
雨上がりの空気はとても澄んでいて・・・なんだかとってもスッキリとしていて。

まるで今の私の心を表しているような・・・そんな感じがした。



お日様も、明日からはまた元気に笑おうね!


007:守りたい笑顔
「ずっと気になってた」「気にかけてくれて有難う!」「・・・・へへっ」


先輩はテニス部の誰かという事で。誰かはご想像にお任せします。
先輩は赤也がヒロインを大好きな事を知っていて、赤也から相談を受けていました。
でも、気がついたらヒロインは先輩を好きになっていて・・・それを全てを知った上で先輩はアッサリ振りました。
赤也とヒロインちゃんにくっついて欲しかったっていうちょっと後輩思いな感じで。
ちなみに、赤也はヒロインが先輩を好きになってしまったと伝えていません。先輩が勝手に感づいたんです。
















Photo-by アトリエ夏夢色