「うりゃ」
「イテ・・・・ッ」

衝撃に、振り返る。
誰だ、と思って。

「ハオ」

「・・・・・・・・・・」

笑顔に、千石は言葉を失った。

「────・・・・」
「え? ノー反応?」

揃えた指。
その、右手。
その手が、千石の後頭部にチョップをくらわせたのだと物語っている。

「・・・・篠宮・・・・」

千石の呼びかけに、少女は瞬いた。
そして、笑う。

「おひさ!」

明るい声と、笑顔。
・・・・変わらない、その少女。

────二年前の夏に、この地を去った少女がそこに立っていた。




「え? アレ? ────なんで・・・・」
しきりに瞬きを繰り返す千石に少女────は笑う。
「さぁて、ナンデでしょう?」

少女の服装を見てみれば、見慣れた制服を着用していた。

「・・・・・・・・・・」

親の都合、ということでこの地を離れた。
────引っ越してしまった、

仲は悪くなかった・・・・仲はよかった、と言えると思ったのに、ケータイの番号も、メールのアドレスも知らず────交換せず。

連絡を、取っていなかった。
────連絡を、取れなかった。

見慣れた制服。
────千石の通う学校の、女子の制服。

「・・・・まさか・・・・」

千石の反応に、はにっと笑う。

「まさか?」

は千石の言葉を繰り返す。
千石は、そこで言葉を止めてしまった。

を、見つめる。

見つめて、見つめて・・・・二年で、変わったところと。
────二年で変わらないところを、思う。

髪が、伸びた。
背も、伸びた気がする。
────千石も背が伸びたから、視線の高さに大きな変化はないけれど。

・・・・明るい声が、変わらない。
軽い口調が、変わらない。

────その笑顔が、変わらない。

「ただいま!」

千石より早く、が口を開いた。

────言葉と、笑顔と。
なぜか、心臓が締め付けられるような感覚になって。

千石は我知らず、自らの胸元を掴む。
一度俯いた。

顔を上げる。
・・・・幻ではなく、がいる。

「────おかえり」

声が震えそうになった。
・・・・けれどどうにか、震わせることは無く。

千石の言葉には笑みを深める。

────千石はまた、心臓が締め付けられるように。
息が、苦しくなった。




久しぶりに会ったとは、『久しぶりに会った』感じはなくて。
普通に、喋ることが出来た。
────変わらず、笑い合えた。

「アハハッ・・・・あ〜、笑った!」

は自分の腹を撫でる。
笑い過ぎたらしい。

名を呼んで────名を呼ばれたが一度目を大きくした。
大きくして、それから笑う。

「・・・・名前」
「え?」

の呟きに千石が瞬く。

「────名前、呼んだ」

そう言って笑うは、嬉しそうで。
・・・・千石の心臓はまた、ぎゅっとなる。

「いやぁ、『篠宮』なんて呼ぶからさ〜」

続いたの言葉にハッとなる。
・・・・意識せず、と呼んだ自分に。

「また、ヨロシクね」

繰り返す
────繰り返された言葉。

「・・・・うん」
また、よろしく。

千石は頷く。

また────。




────話して、思い出した。
彼女の傍の心地好さ。

話して、再び感じる。
────彼女といる、心地好さ。

傍にいたい。
傍にいたい。
傍にいたい。

どうか、どうか。

────どうか傍にいて。




「・・・・コチラこそ」
千石が応じると、はまた、笑う。

と共にいたいと。
────の笑顔の、傍にいたいと。
千石はまた、思った。