「こんな事あなたに話したら・・・一体どんな顔をするのかしら?」


私は先日、部屋の片付けをしていて見つけた古い手紙を手にしながら微笑んだ。
その手紙は長い月日が経った為か、真っ白だったハズの封筒が少し黄ばんでいた。
それでも、当時の思い出は今でもまだキレイに残っている。


そっと手紙を置き、愛する彼の元へ歩み寄る。
彼はぐーすかと、いびきをかきながら眠っていた。それはとても気持ちよさそうに。
私はそんな彼の姿にくすっと笑うと寝室から毛布を持ってきて、そっと起こさぬように掛けてあげた。


「もうっこんなところで寝てたら風邪ひいちゃうぞ〜マイ、ダーリン」



どんな夢見てるのかなぁ〜。ふふっすごく気持ちよさそう。

私はそっと彼の頭を撫でてみた。
とてもクセの強いネコ毛な彼の髪は、見た目よりもふわふわとしていて、気持ちが良かった。
私は彼の額にそっと口付けを落とすと、彼に寄り添うかのようにソファーに腰かけた。

開けられた窓からふわっと舞い込んでくる風がカーテンをふわりと揺らし
春の臭いが部屋の中に充満した。
太陽の光は外でキラキラと輝いて、小鳥のさえずりがとても心地よい。


私はあくびをひとつするとそのまま眠りに落ちていった・・・・













『あれ?』

いつもと変わらない1日のハズだった。
私は朝7時には家を出て、ほぼ時間通りのバスに乗って、ほぼ時間通りに校門をくぐって
今日も何の変わりもなく自分の名前の入った下駄箱まで来た。

下駄箱をあけたところまでは、いつもと同じだったのだ。
今日もいつもと同じつまらない1日を過ごすんだと。そう、思っていた。


『ラブ・・・・レ・・・ター・・・?』


真っ白な封筒に真っ赤で大きなハートが1つ描かれただけの手紙。
差出人はもちろん、宛名すら書いてない。
もしかして間違えでは・・・?
私の隣の下駄箱は学年一の美少女と呼ばれる女の子の下駄箱だから・・・
多分私宛てじゃないんだろうな・・・・
でも、もし私だったら?


何を自惚れているのだろうかとも思ったが、もし万が一これが私宛ての手紙だったら?
心の中で「ごめんなさい!」と謝りゆっくり中身を取り出してみた。



『あれ・・・?中には宛名が・・・』





様へ」




『わっ・・・・私だ・・・』


うそっまさか!!
今時ラブレター?・・・・しかも、相当汚い字・・・・しかも!よく見ればこれ・・・便箋じゃない・・・
ルーズリーフだ!!!・・・・綺麗なのは外見だけですか・・・・はぁ。


まぁ夢見すぎだよなぁ〜と思いながら、内容に目を通してみた。











様へ



あなたが好きです。

すっげー好きです。大好きです。

授業中いっつも後ろからちょっかい出してごめんなさい。

でも、すっげぇ好きです。大好きです。

俺と付き合って下さい!!













な・・・・なんかコレは・・・・・


なんとも頭の悪いヤツだなぁと思った。
そして、私は気がついた。・・・・・「授業中いつも後ろから」

・・・・そんなヤツひとりしかいないじゃないか。何の為に差出名伏せてるんだか。

『ほんっとにアイツはもう・・・バカなんだから・・・・』


アイツは覚えていたんだ。
私が前に話した事・・・・



"今時レトロすぎるかもしれないけど・・・・私、手紙が好きなの。書くのも、読むのも。
メールって電子的な文章だから、ちょっと固く見えちゃうし・・・・可愛くないから嫌い。
でも、手紙は自分で書くものでしょ?相手を思いながら書く文章ってすごく心が篭って・・・
私、直接言葉で伝えられるのも好きだけど、手紙で告白とか・・・されてみたいなぁ・・なんて"



覚えていてくれたんだ・・・・・
聞かれてもいないのに突然、独り言のようにつぶやいたあんな言葉を。
アイツは覚えていてくれた。


緩む顔を抑えつつ、この手紙の差出人がいるであろう教室へ向かう。
・・・・実はずっと前から知っていたのだ。彼が私を好きだという事を。
態度ですぐに分かったというか・・・なんというか。

でも、それが分かった上でいつも一緒に騒いでいたのは何でだと思う?
いつも口では「イヤだ」と言いつつも一緒になって遊んでたのはどうしてだか・・・分かってるのかな?



いつもと同じはずの景色が、今日は違って見える。
いつもモノクロな世界にいた感覚に陥っていたのに、今日はカラーがはっきりとついていた。
赤・緑・青・白・茶色 こんなにたくさんの色を1度に見るのは久々な気さえした。

そして、扉をあける。
きっと彼が待っているであろう扉を・・・・




中には人影が・・・・
後ろ姿だけれど、私には誰だかはっきり分かった。

彼は・・・・・











「おい、


「ん〜・・・・」


、おい。起きろって!」


「・・・ん・・・んぅ?・・・あれぇ・・・?」


「もーっあれぇ?じゃないっつの!!お前こんなところで寝てたら風邪ひくだろ?」



私はいつの間にか眠っていたようだった。
という事は・・・さっきまでのは夢・・・・?



あれから十数年。

私と当時の彼「切原赤也」は去年めでたく結婚した。
二人の間には子供はいなかったけれど、二人はとても愛し合っていた。
結婚した今だって、昨日付き合い始めたばかりです!と言えるかのように初々しい空気に包まれている私達。
赤也とは、あの日から付き合い始めてその後もずっとずっと順調に付き合ってきて・・・・

そして、やっと。
去年、ずっと夢にみていた「赤也のお嫁さん」になれたのだ。
結婚した今も、付き合っていた間もずっとずっと大切にとっておいた「初めてもらったラブレター」


当時は白かった封筒も今ではもう黄ばんでいて。
中身は貰った時から決して綺麗と言えるものではなかったけれど・・・
私の1番の宝物。これは一生変わらない。



きっと赤也は私がまだあの手紙を持ってるって事知らないよね?
時々読み返している事も知らないよね?ふふっ


「あーかやっ!」

「うをぉっ!?」


私は赤也の背後から抱きついた。
私がこう積極的に甘える事は少ない為か、赤也はとても驚いた顔をしていて
「どうした?怖い夢でも見たのか?」なんて。・・・あら、嫌だ。本当に驚いているみたい。



「驚かせてごめんなさい。別にそういうんじゃないの」

「そっか・・・なら良いや!」

「ね、赤也・・・・覚えてるかな・・・?」

「ん?」



あの日あなたが私にくれた手紙の事・・・・
あなたは、覚えていますか?





004:何度も読み返してしまう手紙
「お前あんな恥ずかしい物まだ持ってたのか?!」「恥ずかしい物ってなによっ人の宝物に向かって!」
























Photo-by アトリエ夏夢色