一世一代の恋に敗れた時、大好きな人から別れを告げられた時。
人はどうやってその傷を癒すのだろう?





@ 友達に愚痴を聞いてもらう?  A お菓子を自棄食いする?  B 新しい恋をする?






答えは様々で、それだけ恋の痛手は深くて。


でも・・あたしの場合は・・・@+Aかな。
























淋しいときには




























「うわーん!!!本当に本当に好きだったのに〜!!あたしの2年間を返してよー!」



そう叫びながらあたしは手近にあったケーキを頬張った。
グスグス泣きながら、でも食べる手は止めようとしなくて、そんなあたしを見てた若が呆れた様に呟く。



「たく・・泣くんだか食うんだか、喚くんだかどれかにしろよ。」











ここは若の部屋。
若の家に来る前に大量に買い込んだお菓子が散乱している中、あたしはさっきから泣き喚き続けている。




今日、あたしは大好きだった彼氏に一方的に別れを告げられた。




理由は拍子抜けしちゃうくらい簡単な事、好きな人が出来たからって言う事だった。
それでも全くそんな前触れ、予兆に気付かなかったあたしとしては、目の前が真っ暗になったとか世界が光を失ったとか。
そんな言葉それこそ大げさではなくて。


世界が一瞬で音を無くした。


そしてそのままコンビニで大量のお菓子を買い込み、今に至るわけだ。




「・・だって・・好きな人が出来たなんて・・うう・・何それ!」


「・・・・・・」


「初めての彼だったのに・・」


「・・・・・・」


「・・うわーん!!!もうー!!バカー!ふざけんなー!!」




あたしはそう言い若のベットに突っ伏した。
涙はボロボロ流れる。
でも・・何だろう?悲しみよりも悔しさの方が優っているような。
でもそれでいてやっぱり彼を好きだったから、いまいち未だ別れを自分の中で消化出来ていない様なそんな感じで。




あたしがひっくひっくしゃくり上げていたら、黙ってあたしの言葉を聞いてくれていた若の暖かい手がそっとあたしの髪を撫ぜる。
優しく優しく壊れ物を扱うようなその優しい手に、何だか荒んでいた荒れ狂った心は、徐々に落ち着きを取り戻してきた。



「・・好きだったんだろ?ショックだったんだよな。」


「っ・・・・・」


「、たく・・強がんな。」




そう口にした若の声音が優しすぎてあたしは何でだか、落ち着いてきたはずがまた泣けてきちゃって。
むくっと起き上がると涙でぐちゃぐちゃな顔のまま、若を見つめた。
そしたら若はふっと優しく微笑み、あたしの頭を自分の胸に引き寄せた。





「っ・・若・・・あたし・・・」


「分かったから。今は思いっきり泣いていいから。」


「っ・・うっ・・・」




よしよし、とあたしを優しく抱きしめたまま頭を撫でてくれる若、その暖かさに甘えてあたしの目からは大粒の涙が溢れ出した。





















どれぐらい泣いただろうか?
泣くだけ泣いたら気分は信じられないくらいすっきりしていて。
何がそんなに哀しかったんだっけ?と言いたい位、調子いいけど本当にそんな気分だった。


あたしは若の胸からそっと顔を上げ、多分化粧とかドロドロで酷い顔なんだろうけど、思いっきり笑った。



「・・ありがと!若のおかげで何かすっきりしちゃった!うん!」




本当にそうだった。
あたしがそう口にしたら、若はふっと笑い優しい目であたしを見つめたまま言葉を紡いだ。





「・・酷い顔。」



そうぽそっと口にした若。
その笑顔にあたしの気持ちは更にすーっと楽になっていくようで。
この空気を若が変えようとしてくれている事は明白だったから、あたしもわざとらしいくらいぶーっとむくれて口を開く。




「・・・こういう時は、泣いた後も君は綺麗だよ?くらい言ってよー」


「いや、ほら・・俺嘘つけないし?」


「むー!よし!若のワイシャツで顔ふいちゃうもん!」





そう言いがばっとあたしは若に再び抱きつき、胸に顔を埋める。





「おい、〜・・っていうかすでについてんだけど?」


「あ、はは。本当だ〜」





その言葉通りさっきずーっと胸を貸してもらっちゃってたから、若のワイシャツにはマスカラがついてしまっていた。




「ご、ごめんね・・?」


「・・・・・」


「う〜若〜ごめんってばー!許してー!」




そうあたしが縋り付くとぷっと若が噴出す。



「たく、笑ったり泣いたり膨れたり、凹んだり・・忙しいなは。」


「・・・だって若が本当に怒っちゃったのかと思って・・」


「怒るわけないだろ?こんなことぐらいで」


「若・・・・」


に迷惑かけられる事なんて慣れてるし?」




そう言うとふっと意地悪な顔して笑う若にあたしもふっと笑い出して、あたしたちは互いを見つめ合って一頻り笑った。













一頻り笑って落ち着いたら、何だか今日振られた事なんてすでに心の中では小さな事になりつつあって。
あたしは、そういえば・・と思い出し口を開いた。



「・・不思議だなぁ・・。」



急にそんな事を喋りだしたあたしを、若は不思議そうに覗き込む。


「・・何がだ?」


「うん。だってね、大好きだった人に振られたはずなのに。世界が終わった!くらいの事思ってたはずなのに。
今はもう気持ちが落ち着いてるなんて、不思議だなと思って。」


「・・


「それにね、よくよく考えたらいつもそうだったなぁって。」




あたしはぼんやり思い出しながら言葉を紡いだ。




いつもそうだった。
それは小さい頃から。
近所の男の子に苛められて若の所に泣きながら来た時も・・・先生に怒られて落ち込んで来た時も。
大好きな先輩に彼女がいるって知ってショック受けた時も・・・友達と喧嘩して哀しくて仕方なかった時も。


いつもいつだってあたしは若の所へ来て。
泣いて、話聞いてもらって。

そしたらいつだっていつのまにか、あたしの心は軽くなっていたんだ。




「・・いつも若に話聞いてもらって側にいてもらうと、何かすべて大した事無い事のように思えたっていうか。」


「・・・・・・」


「ふふ・・あたし何だかんだ若を頼りすぎだよねぇ。」


「・・・・・」


「・・でもね、若がいてくれて本当良かったって思ってるんだ。ていうか若がいなかったら、あたしこうしてられないかも。」




そうあたしはいろんな事を思い出しながら、笑みを零した。

そしたら今まで黙ってあたしの話を聞いていた若がはぁっとため息を吐いて項垂れた。



「・・・さ・・本当ずるいな・・」


「え・・?ずるい?」



そう言いながら若は髪をくしゃっとし、ゆっくり顔を上げると真っ直ぐあたしを見つめた。
その目は真剣そのもので、あたしは目を奪われる。

逸らす事なんて出来なくて、固まったように若の目を見つめ返していたら、ゆっくり若が言葉を紡ぎ始めた。



「なぁ・・


「な、に・・・?」


「俺がさ、今までどんな気持ちでの相談に乗ったり、泣き言に付き合ってたか分かるか?」


「・・・え?」


「・・・好きな奴の失恋話聞くのがどれだけしんどいか・・」


「っ・・・・・」






え?今なんて言ったの?
好きな奴って言った・・?





あたしは若の言葉に動揺しきってしまって。何が何だか分からなくて。
ただ心臓の音だけは有り得ないぐらい早くなっていて、あたしの心を素直に代弁しているようだった。


ドキドキドキ・・・・


どうしたらいいか、分かんなくて。ただただ若の目を見つめ返す事しか、出来ないでいたら若がふっと噴出した。




「ふっ・・・何て顔してんだよ。」


「・・・え・・・」


「・・酷い顔。」


「なっ!!失礼なー!」



思わずあたしがそう言い返しむくれたら、若もおかしそうに笑っていて。
その笑顔に、何だろう?この感情は・・ドキドキとは違う何かが胸の中で疼いていた。



「・・たく、は鈍感だからな。」


「・・若・・・・」


「・・ワイシャツを汚されようとも、泣きながら部屋へ押しかけられようとも・・」


「・・う・・・」


「・・それでも放っとけないなんて、それでもを好きだなんて。俺もどうかしてるよな。」


「・・・若・・・」





そう言う若の目は凄く優しくあたしを見つめていて。

そこで若は一回言葉を止めて、ゆっくり真面目な顔になった。
その顔はずっと小さい頃から見てきた若のはずなのに、何だか酷く男の人というか違
う人みたいな気がして。
ドキドキなる心臓は最早止める事が出来ないくらい、うるさく鳴り響いていた。


そんなあたしを真っ直ぐ見つめたまま、若はゆっくり口を開いた。





「・・・俺はが好きだ。ずっと・・昔から好きだった。」


「っ・・・・」





その瞬間、世界は無音に感じられた。
それは今日二回目の、世界が無音になった瞬間。


だけど一回目の時とは違って・・世界が動き始めたような・・光が溢れ出してくるようなそんな感覚。





「って・・何で泣くんだよ?」


「・・え?」



慌てたようにあたしの涙を袖で拭ってくれる若。
そうされて初めて、自分が涙を流していた事に気がついた。



「あ・・れ・・何でだろう・・何か凄い・・嬉しくて・・」



そうあたしが放心状態のまま口にしたら、一瞬唖然とした顔をしていた若がふっと急に笑い出した。



「な、何で笑うの!?」


「・・ははっらしいな。」


「・・何それ!?」



そうあたしが尋ねても若は笑っているだけで、教えてはくれなくて。



あたしはそんな若の笑顔を見ながら、胸に暖かいものが込み上げてくるのをずっと感じていた。







淋しい時、辛い時、哀しい時、いつだって若はあたしの側にいてくれた。
そして嬉しい気持ちや、楽しい気持ちにいつだってしてくれた。


失恋をしてもすぐに心が切り替えられたのは、若がいてくれたから。


もしかしたらあたしも自分でも気付かないうちに若が好きだったのかも。


なんて・・・


若じゃないけど余りにも鈍感というか、馬鹿な自分に呆れつつあたしは、がばっと若に飛びついた。

そしたら戸惑いがちに若の言葉が降って来て。




「・・で、返事は?」




あ・・そっか。自分の中では綺麗に決着がついていて。
なーんだ、そういう事だったんだ。だからあたしは若の側が安心するんだね。
なんて思ってたけど。
伝えなきゃ、若に伝わらないよね!





あたしは多分今、満面の笑顔だと思う。

そしてぎゅーっと抱きついたまま、ありったけの気持ちを言葉を口にした。



「・・・ありがとう、若。大好きだよ!!」



そう言ったら若もぎゅーっときつく、だけど大事そうに優しく抱きしめ返してくれて。



「・・・あーあ、これからも俺はのお守りか・・」


「・・もうー!またそんな事言うー!!!」


「・・ふっ・・・」


「・・ふふっ・・・」



あたしたちはお互いの体温に包まれたまま、幸せを噛み締めて笑い続けた。







失恋をした場合の立ち直り方・・


あたしは@+A+Bだった・・・


でも違う。



あたしの答えは・・・・・「若」




それだけだったのかも。

























あとがき
企画サイト「silent ster」様へ。
タイトルと合ってなくてすみません・・(汗)素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。 さち