(あ…亮)

            教室から見えるテニスコート。

            夕焼けに染まる地面に、無数の影が映る。


            「バレンタインデー…か。」

            亮はたくさんの女の子に囲まれて、たくさんのチョコを受け取って、たくさんの笑顔を返すんだろうな。

            "幼なじみ"ってだけじゃ…恋愛は無理なのかな。



            結局、言えずじまいだった。

            「放課後、待ってるね」…その一言が。

            丁寧にラッピングされた、自信作のチョコレート。

            微かに緩んでいたリボンを、きつく結びなおすと、再びバッグにしまった。


            と、同時に下校のチャイムが鳴る。

            (そろそろ終わりかなぁ…)

            校庭を見ると、案の定凄い数の女の子達。

            そんな彼女達に微笑んでいる亮を見つけると、ふいに悲しくなった。


            亮から目を離し、教室の隅に座り込む。

            バッグからMDプレーヤーを取り出して、バラードの曲をかけると、うとうとと眠りについてしまった。

             

            『ねぇ…亮、ドコ行くの?』

            『秘密』

            『どこにも行かないでよ…?』

            必死に訴えても、どんどん遠くなる。

            『行かないでよっ…!!!』


             

            バッと起き上がると、目の前に驚いた顔の亮の姿があった。

            「え? 亮…?」

            あたりはすでに真っ暗で、大分寝てしまっていたらしい。


            「大丈夫か?」

            亮は私の目の前にしゃがむと、そっと手を伸ばして私の目をぬぐった。

            いつの間にか…泣いていた。


            「どうしてここに…?」

            「のくつ…まだあったから。」

            私は小さな声でそっか、と呟いた。


            「帰ろうぜ。」

            亮は私の腕を引っ張ると、起こしてくれた。


             

            校門を出た後も、何も喋らなかった。

            亮が先で、私が後ろをついていく。

            「さっきのことだけど。」

            「…うん。」

            突然の声に驚いたけど、落ち着いて返事をした。


            「俺は、どこにも居かねぇよ。」

            「…うん。」

            目の前がかすんだ。


            きっと、亮はさっきの私の寝言、聞いてたんだ。


             

            「俺は、この先ずっとお前と一緒に居るから。」

            亮はイキナリ振り返った。


            「まーた泣いてる! ホントは泣き虫だな…」

            苦笑いしながら、亮は小指を私に向けた。


            「約束」

            私もそっと、それに小指をからめる。


             

            好き とか 愛してる とか、そんな言葉はないけど…

             


            指は自然に離れ、今度は全部亮の大きな手に包まれた。

            私はこっそりテニスバッグにチョコを入れると、大きな声で「約束ね」と言った。



             

            口で伝える想いより

            誰よりも 何よりも幸せな

            指先から伝わる「愛してる」

             

            指先の言葉

             

            080402

            Silent star様に提出夢です!
            バレンタインの季節は過ぎてしまいましたが…。
            女の子にとってはバレンタインデーは一大イベントですし!!
            というワケでテーマはバレンタインでした♪