今のあたしのこの状況。

一体どうしたらいいのでしょう?

あたしは、次の駅で無事に降りられるのでしょうか。




















  恋 に 落 ち た の は 一 瞬  






















「・・・はぁ」

あたしの小心者・・・。

あたしは自分のつまらない性格に大きく溜め息を吐いた。

結局あたしは隣に座るこの人に何もすることができないままいつもの駅で降りることに失敗した。










さかのぼること十分。

隣に氷帝学園の制服を着た男の子が座ってきて、彼は漫画を読んでいた。

そんな彼の手元を見て、あたしもこっそり読ませてもらってたんだけど、それも束の間。

その彼が、あたしの肩に寄りかかってきた。

慌ててまた彼の手元を見ると、漫画は手から落ちそう。

そっと彼の顔を見たら、彼はなかなか綺麗な顔立ちをしていて、結構好みだった。

・・・からかもしれないな。

席を立てなかった理由。










最寄の駅から五つ離れた辺りで肩から重みが取れた。

そっと彼の顔を見てみると、ぼんやりした顔をして意味がわからないという顔をしていた。

そしてそのままなんとなく気まずい空気が流れた。










次の駅に着いて、あたしは席を立った。

・・・同時に隣の彼も。










「はぁ」

あたしはまた大きな溜め息をついて、逆のホームに向かって次の電車がくるのを待った。

・・・期待していた自分がいる。

会話をするとしても、すいませんでした、とか結局はそのくらいだとわかっているのに。

彼と隣の席になったりすることも、肩に寄りかかられることも、もう二度とないのに。

そう思うとどうしようもなく寂しくなっている自分がいた。

さっきまで彼がもたれかかってきていた方の肩をチラッと眺めてまた溜め息を吐いた。










「・・・さっきはすいませんでした」

「・・・え?」

見ていた肩の反対側から声がかかる。

結構好きな声がした。

でもあたしにこの声の知り合いはいないし、謝られるとすれば・・・。

期待して振り向いた。

そしたら、期待通りの人がそこにいた。










「あれ?・・・どうしたんですか?」

「いえ、乗り過ごしてしまって」

「そ、そうなんですか」

「あなたは?」

「え、あ」

あなたのせいであたしも乗り過ごしたんですよ、とは口が裂けても言えなくて、言葉を濁していたら、

「やっぱりオレのせいですね」

と少し困ったように頭を掻いてそう言った。

「あ、いえ!つ、疲れてたみたいだし!あんまり気にしないでください。起こさなかったあたしが悪いし。自業自得です」

あたしは両手を振りながらそう言い、正直ドキドキして困っていた。










想像以上に顔も声もカッコよくて。

ヤバイ、なんか惚れそう。










そう思っていたのも束の間、ホームに電車が来た。

「あ、えと、じゃあ」

あたしはそう言って彼に浅く頭を下げて電車に乗り込んだ。

今度は座れず、満員になってしまった電車の中で仕事で疲れた体を投げ出すこともできずに溜め息をついた。










動き出してからしばらくしてからのことだった。

生まれて始めてあたしは痴漢というものにあっている、んだと思う。

初めは偶然かな、と思ってたんだけど、何度も何度も同じ場所に同じように触れるその手はチラッと見たところ同じ手だった。










少しだけ勇気を出せば振り返れるのに、振り返れない。

なんか、怖いっ!

あたしは恐怖心から振り返ることができなかった。

されるがまま、どうすることもできなかったあたしの隣に、誰かがやってきた。

「どうか、・・・したんですか?」

「・・・」

「気分でも悪いんですか?」

「・・・」

そっと、話しかけられたほうを見てみると、さっきの彼。

あたしはホッとして、なぜか涙が出そうになった。

そして、あたしは無理に笑うと、小さい声で彼に言った。

「じ、実は・・・、痴漢・・・が・・・」










瞬間、彼がその痴漢を押さえてくれて、痴漢は逃げるようにして止まった電車から降りていった。










「ありがとうございました」

あたしはそうとだけ言って笑うと、それ以上何も彼にいえないまま満員電車から降り、いつも通り改札をくぐろうとした。

「待ってくれ!」

彼の声があたしの背中に響いて、あたしは振り返った。










「・・・じゃねぇ、待ってください。えっと・・・あのっ!オレ!宍戸亮っていいます。あなたは?」

「あ、あたしはです」

「・・・さん!今度・・・また会ってくれますかっ!?」

照れたように大きな声で怒鳴るように彼はあたしに言った。

あたしはあまりのことにビックリして声が出なかった。










「あ、えと・・・」

とんでもないことを言ってしまったという顔をして彼は続けていった。

「あの、オレ!なんかスイマセン。・・・ひっ、一目惚れって信じてなかったんスけど・・・。ガラでもないし・・・。あの」

「・・・一目、惚れ?」

さんが好き、みたい、です」










困ったように自信なさそうに語尾が小さくなる彼に、あたしはただただ目を丸くして彼を見つめることしかできなかった。










それからしばらく何度か同じ電車に乗り合わせるようになって声を掛け合うようになった。

そして、彼はあたしの彼氏になりました。



















短編夢半年ぶりに書いたせいかよくわからないことに・・・
偽宍戸ですいません。
華月いちご